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若ハゲ解消バイオリヘア

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 羽毛田(はけた)は悩んでいた。ぱっと見には分からないが、よく彼を見回すとその訳はすぐ分かる。後頭部の髪が薄いのだ。今日も今日とてカメラを使って後ろ頭を眺めながら、ため息をついていた。
「もうここまで来たのか・・・・・・三十歳までは持つと思ったのに二十五でこれだもんなぁ。はぁ。デスクに座ってると後ろを通る足音にびくつかなきゃならないし、やっぱりあれ電話して見ようかなぁ」
羽毛田の目線の先には、PCのブラウザに、「バイオリヘア」なる製品の広告が載っている。
「半永久的か・・・・・・よし、今度の土曜に思い切って行ってみよう」

「――それで当社のバイオリヘアの最大の特徴は、頭皮に密着・融合して栄養をとり、人工毛が伸びるところです。それで半永久的に生体になじんで普通の毛髪のように見えるという訳でございます」
「床屋とかはどうですか?」
「はい、床屋や、洗髪など、日常の行動に制限はありません。全て今までのようにして頂ければ結構でございます」
羽毛田にとってこれは朗報に思えた。なにしろ一回施術したら手を入れなくて済むというのがいい。ちょっと高いが一生の買い物と思えば安いものだ。
「じゃあ、お願いします」

 羽毛田の異変はすぐに会社の部署内に知れ渡った。
同僚の毛野(けの)と房村(ふさむら)が言う。
「なあ、あいつなんか髪増えてね?」「しーっ、かつらだよかつら」
当の羽毛田はいい気分で仕事をしていた。
「〜♪」
などと時折鼻歌まで出ながらてきぱき仕事をこなす。

 お昼休みも終わるころ、羽毛田は部署に戻る途中部長に出会った。
「やあ、羽毛田君ちょっと君に――」
と、部長が何か言いかけたところでぎょっとして羽毛田の頭を見つめる。
「部長、どうしましたか?」
「あ、あ、いや何でもないんだ、何でもない」
と、そそくさと去っていった。不思議に思い、部屋へ戻ると、すれ違う人物すれ違う人物皆おかしな顔をして羽毛田の頭を見つめる。羽毛田はまさか、と思い後頭部に手をやるが、バイオリヘアがとれた様子もない。その代わり妙な感触があり、変だと思って、トイレに行った。
 トイレで愛用の手鏡を出し、後頭部を見ようとしたのだが、その必要は無かった。
 あきらかに正面からでも分かる。後頭部が少し盛り上がっているのだ。何だろうと思ってよく見ると、バイオリヘアを植毛した部分だけが伸びているのだ。急いで櫛でとかして席へ戻る。朝あれだけ念入りにセットしたはずなのに、ちょっと周りの毛とあってなかったのだろうか。それとも日曜にいった床屋が切りそろえるのに失敗したのだろうか。よく分からないが、帰りに床屋へ行こう。そう決めて心にわき上がる不安を押さえて仕事に取りかかった。

「あれ、お客さん、また来たんですか?」
「いや、なんだか髪型がおかしいようで」
「そうですか、すいませんね、じゃあサービスということにさせて頂きます」
そういうと床屋は仕事に取りかかったが、櫛で髪をとかして切り始めると、次第に無言になっていった。
「出来ました、お客さん」
そう言うと、お金を受け取らず、羽毛田が店を出た後そそくさと店じまいを始めた。

 次の日の朝。羽毛田は洗面所で鏡を見てぎょっとした。後頭部の髪がもさもさと上にわき上がっているのだ。何だこれは。昨日切ったはずではないか。あきらかにバイオリヘアの部分だ。急いで支度して、職場に今日は半休を取るむね連絡し、バイオリヘアを施術した会社へ行く。

「はあ、文句を言われましてももう融合していますし、自律的に伸びるのが当社のバイオリヘアの特徴でして。はい」
「でもこんな髪は異常じゃないか!」
「確かに体質に合わないお客様は数千人に一人くらいいると聞きます。ですが、そのリスクを承知の上で契約書にサインをして頂いた訳でして」
埒があかないことを承知で聞く。
「僕はどうしたらいいんだ」
「まあ、ハサミを持ち歩いたらいいんじゃないでしょうか」

 毛野と房村が羽毛田を見て言う。
「おい、羽毛田の髪また伸びてるぞ」
「伸びてるっていうか渦まいてるな」

「おい・・・・・・おい」
「とぐろ巻き始めたな」
「なんか本体やつれてないか」
「本体言うなや! 笑うだろうが。まあ確かに頬がこけてるし、なんか全体的にスーツがぶかぶかだな」

 三連休明け。羽毛田は会社を無断欠勤した。
毛野と房村が昼休み電話やメールを入れてみたが、出なかった。しかたなく、翌日二人は、羽毛田の住むアパートに行き、管理人と待ち合わせて羽毛田の部屋の鍵を開けてみた。
「うあお!?」
「なんだこれ!?」
そこには、部屋いっぱいの髪の毛、そして手に鏡とはさみを持ったままやせ衰え骨と皮だけになり、衰弱死している羽毛田がいた。

 

(2010/9/26)

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