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そしてネズミはネコを食べた

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「さあ、お前の勝ちだ。俺はもう動けない。俺を殺して食べればいい」
「そんなことはできない」
「なぜだ、お前が勝ったのだ」
「違う、私は勝ったのではない。ネコとネズミの勝負というものは―ネコがネズミを捕まえてネズミを食べればネコの勝ちだ。ネズミはネコから逃げのびて生き残れば勝ちだ。ネコが傷つき動けなくなり―ましてネズミがネコを食べるなどという話は聞いたことがない。勝ち負けには関係ない」
「勝った者が負けたものを食べるのは当然だ」
「それはネコの話だ。ネズミはそんなことはしない。また、してはいけない」
「いや違う、お前は食べなくてはならないのだ。そうしなくては、お前達ネズミは進化できない」
「進化だと。進化などしたくはない。進化してどうなる。ある者は進化してヒトとなった。そしてヒトは滅んだ。進化する者は滅びるのだ」
「違うな。それは進化を失敗したのだ。いいか、進化したのは過去に一例だけ―ヒトだけだ。そしてそれ以外の者は進化しなかった。そして例外なく滅んでいったのだ。
「ある者は自分の種族に科せられた宿命により滅んだ。例えば、お前たちネズミなら、さしづめネコに食い尽くされたということだな。
「そしてある者は"ヒト"に ―間違って進化した"ヒト"に滅ぼされたのだ。
「進化せずとも滅び、進化しても滅びるかもしれない。違いは、もしも"正しく"進化すれば、滅びずにすむということだ。そしてその時、その進化した者は他のすべての者達をその種に科せられた宿命から解放するのだという。まあ、この最後の話はネコに伝わる伝承だがな。ついでに言うと、こういう話も伝わっている。
「つまり、ネコは遠い昔、進化する力をヒトに奪われてしまった、ということだそうだ。
「さあ、俺を食べるがいい。願わくばお前達ネズミが正しく進化することを祈って。」

 そしてネズミはネコを食べた。

 

(Requiem for Tom & Jerry)

 

(1989/11/19)

 

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