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サンダー・ロード

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 畜生、速い、速すぎる。こんなに速い奴は初めてだ。無謀にも見えるライン取りで奴は駆け抜けていく。このサンダー・ロードであたしが人の後ろを走るなんて。だいたいこっちはボアアップしていて排気量の差だってあるのに。いくらチューンナップしてあったってこの差をひっくり返せるわけがないのに。畜生。腕の差か。KATANA-IVはもう限界だ。これだけニトロを叩き込めばガタも来るか。
 ヘルメット内に回避信号が鳴る。
 ! しまった、奴に気をとられすぎていた! C-ポイントに突っ込む! もう回避出来ない!
 崩れて、はるか下の廃墟群が見えるC-ポイント。そこへ突っ込む直前、フロントを持ち上げウィリー、直前の石を蹴ってジャンプ――KATANA-IVは飛んだ――一瞬だけ重力に打ち勝ち――接地。再び時速200kmの戦いへ。
 チッ、今の余計なアクションでまた差をつけられた。奴のGPZははるか先だ。くやしいけどあたしの負けだ。あんな速い奴は初めてだよ。
 あたしはなぜか、はやく戦いをおわらせて、奴に会ってみたくなった。
 その時。ヘルメット内に緊急警報が響くと同時にバイザーモニタに映し出されている情報に走行支援コンピュータの警告が、サンダー・ロード管理コンピュータから飛び込んで来た。
 え。これは!? 何、このμ(摩擦係数)は! 氷の上どころじゃないじゃない! ABS装備でも走れるわけがない!
 すぐにフルブレーキング。しかし、モニタの走行コース上のGPZは速度を落とさない。
 あわててコミュを開く。
「速度を落として!! コースのμがおかしい!」
しかし何度呼びかけてもコミュは通じなかった。
 スイッチを切ってる? それとも、もしも……もしも奴のドライビングコンピュータ自体が始めから狂っているとしたら……。
 モニタ上のGPZ、異常な低μ路に突っ込む。そして……爆発音。KATANA-IVから降りて、呆然と佇み、黒煙を見つめる。
「バカヤロウ。いくらはやくたって、死んじまえばなんにもならないんだ……」
モニタ上のμの値は徐々に正常に戻り始めていた。

(1988年7月30日 2013年4月23日改稿)

 

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