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この正常なる世界

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 弟がロボトミー手術を受けることになった。
 弟は凶暴かつ残虐で手のつけられない人間だった。まわりの人間に当たり散らし、両親に殴りかかり、学校で暴れまくる。そんな弟をもはや真人間に戻す最後の手段がロボトミー手術だった。

 病院の廊下で緊張した面持ちで待っていると看護師が薬を持ってやってきた。 「これを飲めば不安がとれますよ」
俺はその渡された薬を何のためらいもなく飲んだ。すると頭がボーっとしてきて、緊張がほぐれていくのが分かった。

 「弟さんの手術終わりましたよ」いつの間にか眠っていたらしい。目が覚めると病院のベッドの上だった。弟がベッドの脇にいる。もう平気なのだろうか。「兄ィ、心配かけたな」

 弟はそういうと俺のほおを張ってきた。俺も弟を蹴って「大丈夫か、このやろう」と言う。
 そして俺は看護師を殴りつけると「お世話になりました」と言って病院を出て行った。

 町のあちこちでは人々が殴り合いをしている。肩が当たっただの目があっただのといった些細なことで取っ組み合いになっている。店では店員に客が金勘定のことで文句をいいながら包丁をつきつけている。

 家へ戻ると両親が心配そうに出てきたが、弟は心配ないよ、というと父親を押し倒した。俺は母親のほおを殴りつけながら、手術は成功だったと言った。
 ぼんやりした感情のままで俺はどうやら手術を受けたのが俺だったらしいことに気づく。
 世界はこれで正常なのだ。パトカーのサイレンがあちこちで鳴り響く。

 

(2008/9/4)

 

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