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戦いいまだ終わらず

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 「川沿い走ってれば民家があると思ったんだけど・・・やっぱり甘かったかな・・・まずいなあ、登録された補給ポイントまでまだ結構あるし・・・」
川の脇にバイクを止め、付近の地図を走査するが、地図自体が古いのか、どうも走行記録と場所が一致しない。もっとも、支援衛星からの情報が電波障害で得られないのでしかたないのだが・・・。
「ちょっと回り道しすぎたなあ・・・せめて通信が回復すれば・・・ん?」
かすかだが、煙が立ち登っているのを飛燕は見つけた。
「お!ラッキー!」
エンジンをスタートさせてさっそくその方向へ向かう。

ほどなく、草地を切り開いた畑がみつかった。飛燕はバイクをとめてヘルメットを脱ぎ、畑で作業している男に声をかけた。
「すいませーん。あの、このあたりには燃料集積所はありませんか?」
「集積所?そんなものはね」
胡散くさい者を見つめるように、男は飛燕を一瞥すると、短く答えた。
杭につながれた牛が無心に草をはんでいる。重機が牛じゃあ燃料なんて必要なしか、と飛燕はがっかりした。
「そうですか・・・じゃあ、村長さんとか、えーと長老さんでもいいんですけど、この集落の代表者さんはどちらにお住いでしょうか?」
「・・・そんなもん聞いてどうする?」
やや険しい顔つきになった男は飛燕を睨みつけながら言った。
「こんなとこ襲ったってなんにもねえぞ」
「は?襲う?あたしが?ちょっとまって下さい、あたしは警察官ですよ!」
「警察?」
男はびっくりして聞き返した。
「ええ。広域機動警察の追捕使です。ほら、これが身分証です。第8管区所属」
「警察かあ、そうか、そりゃ丁度よかった。長老のとこに案内すっからついてき。」
「は?何がいいんですか?」
それには答えず男は牛に荷車をつけて乗るとさっさと先へ進み始めた。
仕方無く飛燕はバイクでその後をついていったが。
「燃費悪いよぉー」

 牛の後に続いて集落へ入って行く。地図にのっていなかったわりには規模が大きく、古い家も結構ある。バイクがよっぽど珍しいのか、子供達がぞろぞろ後ろをついてくる。やがて一軒の家の前で男は牛を止めた。
「ここが長老の家だ。牛しばったらすぐ来っから先にいってな」
そう言うと男はまた牛を歩かせた。
「・・・紹介してくれないの?」
飛燕はバイクをおりて玄関の前に立った。長老の家がこれだともう燃料は望みなしね、と思いながら、
「すいま」
「こんな所を襲ってもなんにもないぞ」
飛燕が声をかけおわる前にいかにもこの集落で一番長生きしていそうな老人が出てきて飛燕を睨みつけた。
「どうしてあたしが盗賊に見えるんですか!」
「バイクに乗って銃振り回しているような奴は盗賊に決まってる」
「あたしは警察です!」
「警察!?」
「はい。広域機動警察の追捕使です。もしよろしければ燃料を分けてもらえればと思いまして、でなければ一番近い集積所の場所を教えて欲しいんですけど・・・」
「ほんとに警察か?」
「長老もそうおもうだろ?でも身分証もあるんだよ」
さっきの男が後ろから口をはさむ。
「そんなもんいくらでも偽造できる」
「はー、いや、別に信用してもらわなくてもいいんです。すぐ出て行きますから」
「・・・あんたほんとに警察なんだな?」
「ええ」
「だったら頼みがあるんだが。最近ここに盗賊が現れてな」
「盗賊?」
「ああ。・・・というか何が盗まれたのか分からんのだが、なんせ何人も殺されておってな」
まずいこと聞いたなー、なんとか言い訳してさっさと出発しないと、と思いつつ、
「うーん、そういうのは保安官にまかせたほうが・・・」
「こんなとこに保安官なんかいねえ。だから隣町の保安官を呼んだ」
「それで?」
「死んだ。殺された。もっかい頼みにいってるがなんせ遠いし向こうも忙しいようだし」
「あー、いや、まあなんとかしてあげたいのはやまやまなんですけど、燃料もこころもとないし、ちょっと用事が済んでないし・・・」
「用事って、なにが」 「いや、広域特別指名手配犯が捕まったというんでちょっとその確認とか・・・」
「そんな確認と人間の命とどっちが大切なんだ!?あんた本当に警官?」
「うっ・・いや・・・」
心の中でため息をつくと、胸ポケットからレコーダーを取り出す。
「じゃあ、この集落の代表者として、広域機動警察、第8区の追捕使、飛燕に対して正式に捜査を依頼しますね。」
「?ああ。」
「わかりました。では、この事件を仮に第3種広域捜査対象事件として認定し、以降独立捜査官としての権限を行使します。」
レコーダーから、書類を印刷して取り出し、長老に渡す。
「じゃあ、ここにサインして下さい」
「?なんでこんなもんが必要なんだ?」
「ま、一応念のためです。これから、独立捜査官として行動しますが、そのなかには検察官・執行官としての行動も含まれます。その承諾ということですね。あと、あたしになにかあった場合、あるいはこの事件の処理の仕方に疑問が有る場合、それを添えて広域機動警察のほうにいって下さい。ようは、私が担当した、ということの証明です。」
「なんか偉く仰々しいのぉ」

「これが襲われた家だ」
集落の中心部からはかなり外れた、山の森に近い家に案内された。長老の後に続いて、家の中へ入る。壁や床には飛び散った血が乾いていた。
「しばらく前のことだが、結構大きな地震があってな。ま、幸い怪我人はでたが死んだもんはおらんかった。ところがそれからすぐにな、村が襲われはじめてな・・・このとうりだ。ほとんど目つけられた家は皆殺しにあってな、ただ一人だけ息のあったのがいうには賊はたった一人だったて。で、東のほうに行ったというから自警団を組んでな、いろいろ探し回ったら、昔から塞いどった洞窟が、多分地震のせいだと思うんだが、あいててな、そこに潜んどるんだろう、てんで保安官に頼んだんだ。そしたら、洞窟に入ったきり音沙汰なし。で、2日後に入口に、そりゃもうバラバラになっててな、ありゃ人間の仕業じゃないっつてもう、その穴にはだれも近よってねぇ」
「当然、遺体はみんな埋葬してますよね」
「ああ」
はー、まずいなあ。相手の目的も分からず、武装も謎。居場所もほんとにその洞窟だか、怪しいとこだし。大体あたしは力押し専門で捜査は担当外なのよねー、まあ、密室殺人とかじゃないだけましかぁ・・・。
「でな、おい、聞いとるけ?」
「は?あ、いや、もちろん」
「・・・聞いてなかったの。ま、いい、穴見ながら説明すっから」

何件か襲われた家を見たが、どこも似たような惨状だった。遺体が埋葬されているので凶器-武装が分からないのだが、少なくとも銃器によるものではなさそうだった。最後に、問題の洞穴に案内された。もとは崖下にあったらしいのだが、崖そのものが崩れ、横穴というよりむしろ縦穴のようになっていた。
「で、ここに潜んでると思う根拠は」
「根拠ったって開いてて手軽だし近いしな。だいたい保安官がここで殺されとったし」
「・・・」
飛燕が洞穴を見てまず第一に考えたのは、手の込んだ罠ということだった。遺体そのものはまだ見てない。事件そのものがあったのかというのが疑わしい。穴に入ったあと、生き埋めにすればそれでおしまい。何のため?それほど豊かな集落には見えない。迷い込んだ人間は格好の餌食かも。広機に手を出す?広機のことを知らないのか、それとも十分承知の上?
「なんでこの穴は塞いであったんですか?」
「さあのー、わしが子供の時分にはもう封印されとったからの」
「また塞ごうとはしなかったんですか?」
「もちろん塞いだとも。あ、いや、ま、もともと塞がれとった穴だし何か危険があったらいかんということでな」
「・・・別に賊を殺そうとしたからってとがめませんよ」
「そうかね。けどな、昔はトラクターがここにもあったんでそれ使って厳重に封印しとったんだが、今は牛しかいないしの、それでも結構埋めたんじゃが、賊め、あっさりまた穴を開けての。しかし人一人の力じゃとても取り除けんようにしとったんだがのー」
仮にこの中に賊が潜んでいるとして、その目的はなんなのだろうか。今のところ殺すために殺しているように見えるが。それになぜこんなところに逃げ込んだのだろうか。確かに、守りやすいが、生き埋めにされたらそれでおしまいだし。
「塞がれていた穴なら、中で自給自足はできないでしょう。取り敢えず、ここを監視してみます」
「中に入らんのか?」
がっかりした声で長老は聞いた。
「いや、いきなりはいくらなんでもー」
「そんなでかい銃ぶらさげて仰々しい格好しとってもやっぱり怖いんけ?」
「はあ、まあそうですね」

 受動探知機の照準を洞穴の入口に合わせてセットする。有線で監視したいが、一番近い(襲われなかった)家までかなり距離があるので無線で情報を転送する。その家の納屋に寝場所を確保し、監視を開始する。敵は、夜しか活動しないらしいので、むりやり目を閉じた。

 ・・・探知機に反応が現れる。飛燕は目をあけ時刻を確認する。午後7時、既に世界は暗闇につつまれている。反応は、さらに、集落に向かう道に仕掛けた索敵機にも現れる。飛燕は、銃の安全装置を外し納屋から外に出た。
 反応は徐々に近付いてくる。飛燕は身を隠しながらその反応に向かう。賊が明りを持っているなら、もうそれが見えてもいいはずだった。しかし、なんの光も見えない。にも関わらず、歩行速度は普通にあるく速さと変わらない。飛燕と同じく微光視装置を使用しているのかもしれない。結構装備は整っているということか。木の影に隠れて待つ。やがて、飛燕の目に人影が映った。銃を構え、飛燕は叫んだ。
「動くな!警察だ!両手を頭の上にあげろ!」
しかし、その人影は歩みを止めなかった。飛燕は引き金を引いた。
「!外した!?」
飛燕は人影の足元をねらい、短く掃射したのだが、それと同時に人影は身を翻し、洞窟の方へと駆け出して行く。飛燕も後を追って走る。しかし、おいつくことが出来なかった。人影は、洞窟の中へと消える。飛燕は身を隠しながら入口にたどり着くと、閃光手榴弾を投げ込む。目を逸すと同時に激しい光と音が炸裂する。それが収まるのをまってから、付近を走査したが、動くものはなかった。ゴーグルの光増幅度を上げると、飛燕は慎重に洞窟へ入っていった。
 入口付近は何回か崩れたあとはあったが、今の手榴弾では崩れた跡はなかった。生き埋めになる心配は無いだろう。垂直に近い穴を慎重に降りていく。すぐに光が届かなくなる。受動ではもう何も見えない。相手に悟られたくはないのだが、やむをえず、ライトを付ける。念のため、可視光は使わない。程無く、横穴にたどり着く。これが本来の洞窟なのだろう。銃を構え、飛燕は先に進む。
 足元が妙な感触になった。穴は緩やかに下っていたのだが、丁度歩きやすいように、階段があるのだ。
「・・・封印された洞窟に、なぜ?この先に何があるの?」
さらに、奇妙なことに気が付く。まわりの壁が垂直になっているのだ。
「これは、人工の構造物だ・・・」
階段も、さっきは土砂で気づかなかったが、コンクリートでつくられた本格的なものだった。不意に開けた空間にたどり着く。
「何だ・・・これは」
今来た洞窟とは比べものにならないほどの広さの空間が目の前に広がる。明らかに人工的に作られた地下構造物だった。辺りを見回した飛燕はそれが何のために作られた設備か気が付く。
「地下鉄?こんなところに・・・」
飛燕はバイクのデータベースにアクセスするが、少なくとも搭載された地図情報には、この地域の地下鉄のことは触れられていなかった。
「マザーベースじゃないとだめか・・・でも、少なくとも戦前・・・のものでしょうね」
壁沿いに先に進む。廃墟と化した設備を観察する飛燕の心にある一つの疑惑が浮かび上がる。
 ・・・地震の直後から、と言ってたっけ・・・もしも、外から入り込んだんじゃなくて、元々中にいた・・・のだとしたら?あのおじいさんが子供の頃にはもう封印されていた・・・どこかに別の入口がある、のではなくて、ここで、ずっと待機していたとしたら・・・戦前? いや、それより前から?
 歩みを止める。相手は人間じゃない。
 機械歩兵か?話には聞いたこと有るけど・・・もしも、そうだとしたら・・・さっき、弾は外れたんじゃなくてもしかしたら装甲に弾かれたの?
 まずい。トラップか、あるいはゲリラ戦兵力として使われていたのかもしれない。まだ奴の戦争は終っていないんだ・・・。
 状況が不利だ。即座に入口に戻る。索敵しつつデータベースにアクセスし、機械歩兵についての情報を探る。古い兵器のため、詳細は不明、ただ、対人戦闘に特化した人型機械であるとの回答のみ。まったく役に―
 だしぬけに目の前に"それ"が現れた。考えるいとまもなく、引き金を引く。全弾命中したはずだが、その人型はまったく意に介せず向かってきた。振り出された右腕の巨大なかぎ爪が自分の頭をもぎとる前に、咄嗟に後ろへ反り飛び、ホームの下へ逃れる。フルオートでさらに頭部を狙う。いない。視界の左からまた爪、それを銃で受け流そうとするが、銃をそのまま持っていかれる。痛みを感じる前に振り向きざまスタンブレードを引き抜き、すねを狙うが、握り止められる。だめだ、やられる―
 "それ"が、もう片方の腕を振り上げたとき、飛燕は叫んだ。
「やめろ! もう"戦争"は終わったんだ!」
刹那、かぎ爪の刃が飛燕の顔を薙ぐ寸前、"それ"の動きが止まる。装甲におおわれた頭部の隙間からのぞく目が飛燕を凝視する。
「戦争はもう終わった、お前の任務は終了している、お前の存在意義はもう失われている!」
汗がにじむ。動きの止まった世界。永遠にも感じられる時間が流れたと思ったそのとき、"それ"が口を開いた。
「どちらが勝った?」
「勝者はいない。どちらも消えた。消滅だ。」
「お前は何だ?」
「あたしは警察だ」
沈黙。だがゴーグルに浮かぶ"それ"から、さかんに探査波が照射されている。今まで隠されていた熱をまったくあらわにして腕をつきだしているさまは、まるで憤怒の炎をまとった鬼のようだった。
 ふいに、その熱が収まる。そして"それ"が言った。
「確認した。」
徐々に、その全身から放射が消える。ゴーグルを通して見る世界は闇に沈んでゆく。そのまま、微動だにせずに、どれほどそうしていただろうか。飛燕はスタンブレードから手を離した。"それ"はそのまま"死んで"いた。

「なんだ、燃料あるんじゃないですかー」
「だから言ったろ、昔はトラクターもあったて」
「・・・腐ってますか?」
「さあのー」
「ま、いっか。それじゃ、ちょっと急いでるんで、もういきます」
「ほっか、んじゃあの、きぃつけて行きんさい」
「はい」
悪路をバイクで進みながら飛燕はあの機械歩兵のことを考えていた。あのとき、あれは何を考え、何を"確認"したのだろう。飛燕の"何"で、自分の所属する世界がもう失われていることを認識したのだろうか。飛燕には、分からなかった。あの地下鉄のあった世界のことも、機械歩兵を作った世界のことも、そして、自分の所属する世界そのもののことも。
「まぁ、いいか」
アクセルを開け、飛燕は任務地を目指す。

 

 

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