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そらより還る

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 フランチェスカが気付いたのは何もない真空の宙域だった。すでに目の前にあった赤色巨星は無く、敵味方ともども消えていた。フランチェスカは辺りを探ったが、無駄だった。ここにはもう誰もいない。フランチェスカ一人きりだった。フランチェスカは右手で虚面世界の扉を開き、この宙域を脱した。

 たどり着いたのは、文明が栄えた町だった。ビルディングが形成され、道路は喧噪にあふれかえっている。フランチェスカの属していた勢力から発展した星だった。だが、友軍のシグナルはない。ここは戦場ではなかった。突然巨大な爆発が起きる。核融合反応。町は一瞬にして無と化す。フランチェスカは宇宙(そら)を見上げる。虚面形成反応があった。フランチェスカの虚面形成反応を追跡してきた敵軍の対惑星破壊砲が出現している。フランチェスカは左腕をそちらに向けると、コラプサーキャノンを撃った。砲は消滅する。間髪入れずに足元にむけても放つ。惑星のちょうど裏側にも出現していたのだ。大地は割れ、海は割れ、空が割れ、そして敵の砲は消滅した。もちろんその星の文明も。フランチェスカは再び虚面世界の扉を開ける。

 灼熱の恒星だった。まだ若い。その表面で炎生体同士が争っていた。フランチェスカは敵性反応とともに味方の反応にも気付いたが、恒星ごと分解したほうが早いと判断し、その恒星を量子分解、虚面世界の果てへとエネルギーを流出させた。断末魔のコロナが吹き上がり、恒星は消えた。そして、その恒星系の惑星は凍り付き、息づきはじめていた原初の生命と呼べるものは皆砕け散った。

 決してたどり着く事の出来ない泡沫宇宙の生成と消滅を見た。その中では何百億年の時が流れたのだろうか。だがこちらから見ていたフランチェスカには数時間の出来事だった。

 銀河同士が互いに衝突する様も見た。あれは琥珀の軍と赤壁の軍が何十億年か前に互いに仕掛けたトラップだった。今頃何十、何百の文明が死に絶え、その横で両軍が計画された永久戦闘を繰り返していることだろう。

 捨てられた人工衛星の上に立ち、そのまま衛星が大気圏に突入する様を見る。真っ赤な炎につつまれた視界からは、妙に艶めかしい大地が見えた。

 凍てついた砂の上を歩きながらフランチェスカは考えた。友軍はもうどこにもいないのではないか。あの、琥珀の軍と赤璧の軍との戦いの自動的な戦闘にも立ち向かってきたが、あれから大部時が過ぎ去った。戦いは終わったのではないか。

 まるで光のシャワーのように、新星が輝く宙域。フランチェスカは奇妙な物体に出会った。シルエットは人型のようだが、よくセンシングすると、それは触手、えら、目玉、吸盤、外臓器、放電器などのもろもろの部分がからみあって角度によって人型に見えるだけだった。フランチェスカは自分の知っているIFFコードを送る。
 すると、その物体が口を開いた。
「我はフランチェスカ タイプX」
フランチェスカは起動試験タイプZだった。"それ"は、そうするとフランチェスカの発展型の戦闘兵器なのだ。
「タイプZはもう登録されてはいない、お前のIFFも役に立たない」
タイプXはするすると触手を伸ばしてきた。本能的に危険を察知したフランチェスカは咄嗟に虚面世界を構成すると、その宙域を離れた。

 それから幾星霜の年月が流れたことか。フランチェスカは様々なものを見てきた。戦場で神の名を叫びながらついえていく兵士、神の冒涜をたしなめる神父、神が狂っていると主張するもの、街角で泣き叫ぶ子供、子供を救おうとして死んでいった父母・・・生命の誕生と絶滅、恒星系の誕生と死。
 フランチェスカは軍にはもう属していない。さりとて帰る場所もない。いや、たった一つ、これはすべての兵器の再奥に記録されている、軍の始祖である惑星の場所があった。

 フランチェスカが最後の扉を開けたそこには、記録されていたとおりの美しく青く輝く星があった。フランチェスカはそのまま大気圏に突入する。様々なものを見過ぎたと思いながら。そして帰ってきたと思いながら。

 

(2011/3/4,3/8改題)

 

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