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三人家族

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 その家を選んだことに理由はなかった。どこでもよかったのだ、一夜の宿としては。鍵のかかっていない玄関をあけ、中に入った途端、"刀"が飛んできて、玄関の脇の壁に突き刺さった。刀の柄を掴んでいる手は、異様に長く、廊下の奥から伸びていた。
「出ていけ! ここは俺の家だ!!」
 壁から刀が抜かれ、廊下の先に消えていく。全くの闇だったが、しかし、陽香の目には、破れて血まみれのスーツを着た男が奥の部屋へ消える姿が見えた。少し目を細めると、陽香はかまわず奥へ進み、男の消えた部屋へと入る。
「来るなと言ったはずだ!! ここは俺の家だ! 誰にも渡さん! 家族を守るんだ!!」
 刀を陽香に突きつけ、よだれをたらしながら男はわめき散らす。
 そこはかつてリビングだったらしい。高そうなソファーはズタズタに切り裂かれ、壁のあちこちに血がこびりつき、品のよさそうだった部屋も今は見るかげもない。
 部屋の中央の、これだけは無傷のテーブルの上に、花瓶でも置いてあるかのように二つの首―女と男の子―が置かれていた。
 苦痛に満ちた表情だった。

「うちの家庭の幸せを壊す奴は殺してやる!」
 男は刀を振りかぶると、陽香に斬りつけてきた。陽香は男の正面に突っ込み、左手で男の手首を握りつぶして右の拳を男の腹に叩き込んだ。装甲化もせず、あっけないほどの手応えで男の腹は破れ、陽香の拳は背骨を折って背中へ突き抜けた。
「ここ・・・は俺の・・・三人で幸せに・・・」
 拳を引き抜くと、男は血を吐いて倒れた。陽香は男の死体を見つめていたが、しばらくしてその死体から首を引き抜くと、テーブルの上の二つの首の横に並べて見た。
 苦痛に満ちた顔が二つ、狂気に満ちた笑みを浮かべた顔が一つ。
「ばかばかしい」
 テーブルの上の首を三つとも手で払いのけると、陽香はその家を後にした。

 

(1998/7/23)

 

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