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さまようサラリーマン

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「お客さん、終点ですよ」

「ん、おおっ、しまった」

と、はね起きて、電車から飛び出すと、そこにホームはなかった。

当然下まで墜落。さいわい、下はやわらかい砂地だったので、

ころんだだけでどこもケガはしなかった。

「なんだこりゃ―おい、どこだここは」

いつの間にか降りて傍らに立っていた車掌に聞くと、

「ここは終点ですよ」

「だから何駅だ」

「駅名なんてありません、全ての終点なんですから」

「全ての終点?」

「ええ、私の終点、電車の終点」

と、見る間に車掌はサラサラと砂のように崩れていってしまった。

おいおい、と思って電車を見ると、こちらも同様砂の山になっている。

そうか、電車はこうやって一生を終えるのか、と感心している場合じゃない、

四方を見わたしても砂漠が広がるばかり・・・。

 

「・・・というわけでここにとり残されちまったってわけよ。

話相手に会ったのはかれこれ六万年ぶりだな」

夜だか昼だかわからない適当な明るさの下、岩と砂ばかりの荒れ地に、ネクタイを締め、

脇にブリーフケースをおいたサラリーマンと小さなカエルが一匹。

「よく時間がわかったね」

「時計できちんと計ってたからな。ロレックスの自動巻きだぜ」

「へー、いいものもってんだね」

「ジョニー、時計はサラリーマンの必需品だぜ」

「ばくはジョニーって名前じゃないんだけど」

「照れるなよジョニー、今日からお前はおれの相棒だ。ところでジョニー、

お前さんここから出る方法知らないか? おれは明日大事な会議があるんだ」

「ないね。多分、ここは見捨てられた場所だよ」

「ジョニーはどうやってここに来たんだ? 迷い込んだくちか?」

「うん」

「そうか」

「気まぐれな女の子でも飛びこんでこないかぎりここから出るのは無理だね」

「悲しいこと言うじゃないかジョニー」

 

そのとき、前ぶれもなく四方から光が集まり、目の前で輝いたかと思うと、

小さな女の子があらわれた。

「あっれー、ちょっとワールドを間違えちゃった! ねえ、ここどこ?」

「どこと言われましても・・・あなたも迷い込んでこられたのかな、えーと」

「あたしはゆかり」

「おお、いい名だ、プリンセス・ゆかり、こっちはわが長年の相棒ジョニー、そして私は・・・

えーと、私は・・・まあいいや」

「? おじさん名前がないの?」

「長いこと人に会わなかったので忘れてしまったのですよ、プリンセス・ゆかり」

「ふーん・・・あたしはもういかなきゃ」

「おお、ここから出ることができるのですか、できれば私も一緒に連れて行って下さい」

「うん、いいよ」

「なんとやさしいお方だ、プリンセス・ゆかり、あなたにはお礼としてこのアマガエルの

ジョニーを差し上げましょう」

「言っとくけどぼくの名前はジョニーじゃないよ。それにぼくはモリアオガエル」

「わあ、このカエルさんしゃべるんだ、ありがとうおじさん、じゃね」

「あ、ちょっちょっと」

男はゆかりを抱きとめようとしたが、その前にゆかりとカエルの体は光につつまれ、

四方に飛び散ってしまった。呆然と立ちつくすサラリーマン。

 

「ま、いいか、また来るだろう」

こうつぶやくと、ブリーフケースを手にとり、またサラリーマンは歩きはじめた。

 

(1992/3/13)

 

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