index >> 小説置き場「悪夢は」 >> りるの見る景色

 

りるの見る景色

--

「姉貴、何してんの」
「んー、りるが普段どんなとこ行ってんのかと思ってさ、カメラとGPSつけてみたの」
「邪魔にならないの」
「最近のはちっさいからねー、じゃ、お母さん、りるがそと出たがったら出してあげてね」

   *   *   *   *

「さてさてりるちゃんはどんなところに行ってきたのかなー?」
「何だ、動画じゃないんだ」
「そこまで容量無いからね、・・・塀の上・・・誰これ?」
「さあ?」
「何、おじいちゃんからごはんもらってんの? 最近ちょっと太ったような気がしてたんだけど、よそでもごちそうになってたわけ?」
「ごろごろしてるね」

   *   *   *   *

「一週間前、となりの地区のアパートで老人が孤独死したんですって」
「母さん、珍しくもないよ、最近は」
「でもねえ、お金とかには困ってなかったみたい。急な病気だろうって。やっぱり日頃から近所づきあいは大切ね」
「さー、りる、今日はどこへ行くのかな」
「何、姉貴、また覗き見シュミ?」
「うっさい。じゃあお母さん頼んだ。行ってきまーす」

   *   *   *   *

「今日、左子町のJRのあの踏切で飛び込みがあったんですって」
「やだー、あそこ前もあったでしょー、何かいるんじゃないの?」
「姉貴、りるの絵は?」
「あ、今見るとこ。ふんふん、こんなところ行ってたの。・・・ってあれ、これ踏切・・・GPSは・・・左子町の踏切だ・・・」
「えー、もしかして飛び込みの場面が映ってたりして」
「んなわきゃないでしょ。でも動かないね、ここから。・・・あれ、この女の人もずっと映ったまま・・・」
「・・・気味が悪いからもう見るのやめようよ・・・」
「・・・そうだね・・・」

   *   *   *   *

「さてさて今日は待ちに待った日曜日、りるちゃん追跡作戦はじまりはじまりー」
「リアルタイムで追跡すんの?」
「ん、モバイルで電波拾って追っかけるの。さー、りるちゃん、おでかけしなさい・・・って今日はじゅうたんでごろごろしてるねぇ」
「りるも日曜日なんだよ」
「何それ、せっかく人が予定あけておいたのに、つまんない。りーる、りる、ほら窓あけたよー」
「にゃう」
「眠そうだよ」
「りるのばかー!」

   *   *   *   *

「結局今日は一日家の中でごろごろしてたね、りる」
「まあそんな日もあるわよ」
「でもお母さん、りるが外に出なかったのって見た事ある?」
「冬はうちの中が多いけど・・・そういえば珍しいわね」

   *   *   *   *

 サイレンの音。真っ赤に燃え上がる炎、折からの強風にあおられ、またたくまに火は家中をなめつくす。
「坂波さんは、大丈夫なの? ちゃんと逃げられたの?」
「それが、誰も見てないんですって」
  近所の人が規制線の外から遠巻きに火事を見ている。
「心配だわ」
「あら? この猫、坂波さんちの猫じゃない?」
「ああ、確かりるちゃん」
「よかったね、りるちゃんは逃げ出せたのね」
「にゃあ」

  りるは真っ赤な炎を見つめている。りるの首につけられたカメラも炎を写している。

 

(2010/3/3)

 

back