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冷凍ねずみの冒険

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 冷凍ねずみが気がついたのは、まさにカーペットパイソンがその大きな口をあけ、冷凍ねずみをまるのみにしようとする寸前でした。
「わあ、なんであなたは僕を食べようとしているの?」
「おまえは冷凍ねずみだろう。俺に食べられることが冷凍ねずみの仕事だ」
「そんなひどい話は聞いたことがないよ」
 冷凍ねずみはあわててカーペットパイソンの前から逃げ出しました。
「こら、どこへ行く」
「食べられるなんてまっぴらごめんだよ」

 冷凍ねずみが玄関から飛び出すと、ちょうど入ってこようとしていた男とぶつかりました。
「わあ、びっくりした。ぼくは急いでるんだ、そこをどいてよ」
「奇遇ですね、私も急いでるんです」
「あなたはなあに?」
「私は亀の子急便の配達員です」
「配達員?」
「そうです。どんな場所、どんな時間、どんな世界、どんな時代にもあらゆる荷物を運ぶのです。」
「どんな場所にも?」
「ブラックホールに落ちるスターシップの中へも」
「どんな時間でも?」
「過去から未来、光とタキオンの進む方向へ」
「どんな荷物でも?」
「グルーオンから赤色巨星まで」
「その荷物はなあに?」
「冷凍えびと冷凍かにと冷凍ひよこと・・・」
 びっくりした冷凍ねずみは全部を聞き終わる前に飛び出していきました。

 冷凍ねずみが歩いていくと、店の前につながれた老犬をみつけました。
「やあ、あなたはなんでつながれているの? ひもを切って助けてあげるよ」
「やめてくれ、これは散歩をするためのリードなんだ」
「でもこれじゃ自由に動けないじゃないか」
「このリードがないと、引っ張って連れて歩くことができないからね。わしがひきずりまわさないと、もう動くこともできないのさ、うちのやつは。そら、買い物を終えて出てきたぞ」
 その店から出てきたのは、ビスとリベットだらけのブリキのロボットでした。グリスの切れたベアリングをぎしぎしといわせながら、よたよたと近づいてくると、老犬に向かって言いました。
「まーまーポーギーちゃんいーこにしてたー? さあ帰りましょーねー」
 妙に高音の振動する壊れた音声をキーキーと再生しながらそのロボットは老犬のリードをとると、前に進もうとするのだけれど、足がからまわりして結局は老犬にひきずられていくのでした。
「じゃあな、わしはいくよ」

「あれ、もしかして君は冷凍ねずみかい?」
 頭上から声をかけられた冷凍ねずみが見上げると、大きな木の枝に一匹の黒猫が座っていました。
「そうだよ、食べられる寸前を逃げ出してきたんだ。大変だったんだから」
「ふーん、でも僕の大変さに比べたら、そんなのはくらげの吐息だね」
「あなたの大変って?」
「僕は判断者を探しているんだ」
「判断者ってなあに」
「判断者は、世界中の観察者からの報告を集めて、その内容を吟味してから、世界を破滅させるか改革するかを決めるんだよ」
「ふーん」
「ふーんって、あんまり気のない返事だね。世界がもう終わるかもしれないんだよ」
「でもそんなのは僕の大変さに比べたらのみの汗じゃないか。僕はもう食べられて死んじゃうところだったんだよ」
 すると、黒猫はあきれたようにこう言いました。
「でも君はもう死んでいるじゃないか。」
 そのとたん、冷凍ねずみの魔法はとけ、もとの冷凍ねずみにもどり、黒猫はほどよく解凍された冷凍ねずみをおいしく頂きましたとさ。

 

(2004/3/23)

 

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