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パーペチュアルシステム

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「キリキリ、キリキリ」
フランチェスカの口から"ゼンマイを巻く音"が漏れる。私はフランチェスカの首筋に手をあて、"ゼンマイを巻くふり"をしている。
「キリキリ、ギシ」
フランチェスカの口から漏れる声の調子が変わる。もう、ゼンマイを一杯に巻いた、という合図だ。私は架空のゼンマイに添えていた手を離す。
「お手間を掛けますご主人様。またこれで次の時を過ごすことができます」

 フランチェスカは有能なメイドだ。以前仕えていたマスターからの紹介状にも絶賛の言葉が綴られていた。だが、彼女には奇妙な点が一つあった。彼女は自分をゼンマイ仕掛けの自動人形(オートマタ)だと思いこんでいるのだ。
「いたらずに申し訳ありません、フランチェスカは使い捨ての古ぼけた自動人形でございますので」

 フランチェスカの仕事は正確だ。その動きは、もしかしたら本当に機械仕掛けなのか、と思わせるほどに機敏にすきがなく無駄もない。
「ご主人様、寝室のお掃除が終わりました。これから庭のお手入れを致します」
フランチェスカには安心して屋敷を任せられる、と彼女の優雅な身のこなしを見ながら思う。
庭からフランチェスカの歌声が聞こえる。
「らん・・らん・らん・・ららん・ららん・・・」
"主よ、人の望みの喜びを"、という曲だといつかフランチェスカが言っていた。古い、とても古い歌だという。
午後の屋敷にフランチェスカの歌声が心地よく染み渡る。
「ご主人様、次は夕食の準備をいたします」

 フランチェスカに夕食の出来について賛辞を送る。
「今日の、まぐろのカボチャ煮は特に絶品だった」
「お褒めにあずかり光栄です、ご主人様」
私は、そのとき、私は、わたしは、わ、た、し、・・・

「ご主人様? ご主人様もゼンマイが切れたのですね・・・。少々お待ち下さい」
フランチェスカは時を止めたマスターの首筋のゼンマイを手際よく巻く。キリキリキリ。

 ・・・わ、たしはフランチェスカに言った。
「そろそろ私はベッドで休むことにする」
「それでは、ご主人様、お休みなさいませ。時をこえ、デウス・エクス・マキナがご主人様の眠りを見守られんことを」

 一人になった部屋で、フランチェスカが歌うように口ずさむ。
「永遠に、とこしえに
あなたとわたしは滅ぶことなく」
闇が訪れる。

(2004/1/12)

 

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