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お掃除しましょ

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ピンポーン。
「こんにちは―! 出張メイド・サービスの冥土野マリアですぅ!!」
「あ、今日は。メイドのマリアさんですか、どうぞ」
「おじゃましまーす。で、今日は、北内さんのお部屋のおかたづけということでお伺いしたんですけど」
「はい、あの、この部屋なんです」
三秒ほど機能停止。確実に、床から三十センチはゴミが積み上がっている。
「あ、やっぱちょっと汚いですよね、ははっ、近所からも臭うって苦情が来ちゃって」
「あーいえ全然ましな方ですぅ! 中には一軒家まるごとゴミで埋まっているっていうお宅があって、私、火炎放射器とりに事務所に戻りかけましたもの。アパートでこれって別に普通じゃないですかぁ」
「はーそうですか」
「で、どうしましょうか」
「あの、基本的に全部捨てちゃってください。片づけが終わるまでこっちの部屋にいるんで、何かわからないことがあったら聞いてください」
「あ、そっちにも部屋あるんですか」
ガラッ。
「―こっちも汚いですね」
「うっ。いや、こっちはまだ生活空間だから」
「向こうの部屋が片づいたら、こっちも掃除します!!」
「…スイマセン…」

 お菓子の袋、カップラーメンのから、ビールびん。古新聞、古雑誌、ちり紙にボロ切れ、バッテリー。燃えるごみ、燃えないごみ、リサイクルと、手際よく片づけていく。
「あのー本が出てきましたけどー」
「あーどーせ読んだ本だしいらないです」
「でも背に区立図書館のシールがありますよー」
「…いります」

 欠けた茶碗、かびたまんじゅう、割れたCDケース。空の写真立て、そばに丸められた女の子の写真。
「あのー写真がでてきましたけどー」
「えーどんなんですか? あっ! …それはふられた彼女の写真です―他に男が出来たとか言って…ううっ」
「ああぁぁ、すいません、すいません! 泣かないでくださいぃぃ」

 ビデオテープが出てきた。
「えーと、へんたいろりこんだんちづま・ひるさがりのゆうわく・ぱーと4?」
「あー!!それさがしてたんです! レンタル屋から借りて行方不明になっちゃって延滞料金がかかってかかって。助かりました!」

 なにやら、薬包紙につつまれた、白い粉がビニール袋にたくさん。
「これ、なんですかー」
「ああ、それ、よく効くっていうから怪しげなイラン人から買ったんだけど、全然粗悪品だったんでいらないです」
「はー何に効くんですか」
「いやー気分が落ち込んだときとかー」
「そーですかー」

 時計がついた作りかけの電気回路。
「どーしますぅ、これ?」
「あーそれいらないです、時限装置のところがうまくいかなくて。んで雑誌みたら通販で手にはいるっていうんで早速買いました」
「じゃ、燃えないゴミにしますね」

「…あのー、拳銃が出てきたんですけどー」
「…あーそのモデルガン、いらないです。アメリカから部品を少しづつ送ってもらってたんだけど、何かカートリッジだけ手に入らなくて。で、別のやつを知り合いから十万円で買ったんで―」
「わっかりました―」

 よーやく部屋の床が見えてきたので奥の方を片づけようとしたら、
ガラガラガラ。
 崩れた山から突き出ているのは、人間の手。
「あのー、これはどうしますぅ?」
「え、どれですか?」
 隣の部屋から顔を出した北内の前に突き出されたのは腐りかけた女の子の屍体。
「うわああぁぁぁ」
「やっぱり、燃えるごみですかぁ?」
「そ、それは―」
「さすがにバラバラにしないと、ちょっと袋にはいらないですねぇ、これは」
「し、し、仕方なかったんだー!! 考え直してくれって言ったのに、もうつきあいきれない、顔も見たくないってぇ。 うう。」
「わー、また泣かないでくださいぃっ。ともかく、お葬式出すとかゴミに出すとかしないと、結構臭いきついですよぉ、これ」
「そーなんだ、何か臭うから何とかしろって言われて…うう、もうおしまいだー!!」
 突然、北内は足下のゴミの山から拳銃を取り出し、マリアに突きつけた。びっくりしたマリアは屍体を放り出し、両手を上げた。
「わー、やめましょうよ、そーゆーの、それってモデルガンですよね!! 第一、こんなところで撃ったら近所迷惑ですぅ!!」
「やだー!! もう僕はおしまいなんだー!! メイドさんを殺して僕も死ぬー!!」

パンッ!

「あ…れ? はずれた?」
「やだぁ、こんな近くではずれるわけないじゃないですかぁ。もうばっちりひたいの真ん真ん中に命中しましたよー。うまいですねぇ、北内さん」
「どう…して?」
「結構痛かったんですけど、拳銃の弾くらいなら、はね返せるんですよーこの体。一応核の直撃にも耐えられるらしいですぅ。まだ試したことないですけどぉ」
「うっうっうわぁぁー!!」
パンッパンッパンッ。
「あぁぁー!! 服に穴がぁぁ!! ひどいですぅぅ! この服は普通の服なんですよぉー。またお給料から制服代引かれちゃいますぅ! もう止めてくださいぃぃ」
泣きそうになりながら、マリアは北内の手から拳銃をもぎとろうとしたのだが、
ぶちっ。
拳銃どころか、北内の手首まで握りつぶしてしまった。
「あああぁっすいません、すいません!! 感情が高ぶるとつい出力あがっちゃって―何せ十万馬力なものですから」
「手っ手がー」
「あぁ、痛いですか? 痛いですよね、手が無くなったんですから。まってて下さいね、今ばんそうこうつけますからって、ああぁ!! さっき救急箱捨てちゃいましたぁ!」
「救急車…電話で…痛い」
「きゅっ救急車はまだ捨ててないですぅ!! 急いで掘り出しますぅ!!」
「じゃなくて電話で救急車呼んでぇ―」
「わーすいませんすいません、あんまり汚れてたんでいらないもんだと思って粉砕して捨てちゃいましたあぁぁ」
「あっもうだめ」
手首から大量出血で気を失う北内。
「あぁぁっ北内さん、しっかりして下さい、しっ止血しないと!!」
思いっきり北内の二の腕を握るマリア。
ぶち。
さらにそこで北内の腕がとれてしまった。
「きゃあぁぁっごめんなさいぃぃ今すぐつけます! 接着剤はどこですか!? 返事してくださいぃぃ! あぁぁっ心臓がとまってるうぅぅー! 北内さんー! すいません、あなたの死体はどうします!? 生ゴミでいいですかぁ!? 返事して下さいぃぃ! お代金もらえないと、私ガソリン入れてもらえないんですぅぅ!!」

 

(1998/8/16)

 

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