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おいしいバッタ

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「あのー、バッタありますか」
「は?」
「バッタ欲しいんですけど」
「バッタ? バッタねえ。いやぁ、バッタはおいてねえなぁ。うちは八百屋だからねぇ」
「じゃあ、どこに売ってるんでしょうか」
「さぁ、知らねえなぁ。虫屋に行きゃああるんじゃないのかい。はて、虫屋なんかあったかな。でなきゃ、自分で捕ってくるんだな」
「そうですか」

「…まったく、どうかしてるな、ありゃ」
「どうしたんだい、あんた」
「いやな、今真昼間(まっぴるま)っからいかれたにーちゃんが来てよ、"バッタくれ"なんてぬかしやがるんで追い返してやったところよ」
「…あんた、バカかい?」
「へ?」
「そこにあるじゃないか」
「あぁ? うわぁ!? な、なんだこりゃ!?」
「まったく、あきれるねぇ、自分で初物(はつもん)だって仕入れてきたくせに」
「―――」
「今度その兄さんが来たら謝っとくんだよ、かわいそうに、バッタ探し回ってたんだろうねぇ、おいしいからねぇ。うちも今晩はバッタ料理にしようかねぇ」

 

(1990/7/8)

 

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