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オアシス 

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 「はい、いらっしゃいませ、いらっしゃいませ!!」
 威勢のいい音楽とともに店の外へがなり立てているのだが、まったくやっててむなしくなって来ちまう。何せ、まだ客が一人も入ってこないのだ。このパチスロ店は。

 過当競争の都市部を抜けて少し郊外で店を出せばそれなりに儲かるだろうという魂胆だった。下調べでは、この付近の住民は、"パチンコやスロットなど見たことがない"ということだった。だから、はじめは甘い汁を吸わせておいて、ギャンブルにのめりこませておいて、後からしぼれるだけしぼりとるつもりだったというのに、この様(ざま)はどういうわけだ。

 マイクでの宣伝をやめて、俺は掃除機を掴んで入り口の前に来た。何せこの土地では手を休めるとすぐ床が"砂"だらけになっちまうのだ。しょっちゅう掃除しなければ、せっかくの新装オープンの床が台無しになっちまう。

  掃除機で砂を吸い取りながら、チラリと外を見ると、何と、人影がヨロヨロとこちらへ近づいて来るではないか。俺は半ば期待を込めてその人影を見つめた。

 ドアが開いた。"熱風"とともに店内に入ったその男のみなりは、それはもうボロボロでひどいものだった。しかし身なりで人を判断しては行けない。要は金さえ持っていれば、そしてその金を置いていけばいいのだ。男は呆然と店の中を見回したが、やがて苦しそうに言った。
「水をくれ」
「は?」
「水を分けてくれないか。もう二日も何も飲んでいないんだ」
「えーと、景品に多分ミネラルウォーターがあるんじゃないでしょうか。もちろん食べ物もございますよ」
「景品?」
「ええ。えーと、お客様、失礼ですけど、パチスロ店に入るのは初めてでございますね。まずはパチンコなどいかがでしょうか。私がまずは実演して見せましょう。まず玉貸し器から玉を借りるのです。えー、お金をここへ入れましてと。あ、もちろんお客様、お金をお持ちでしょうね?」
「見て分からないのか? 俺は遭難したんだ。食料も水もなくなった。まして金などあるわけないだろう!」
 なんてこった。なんでこの店にはこういう輩(やから)しか来ないんだ。俺は部下に言いつけた。
「こいつをここからつまみ出せ!!」

 まったく、なんで客が来ないんだろう、この店は。いい立地条件のはずなんだけどなぁ。

 

(1989/11/20)

 

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