index >> 小説置き場「悪夢は」 >> 人間の条件

 

人間の条件

--

 「なんてやつ・・・皮膚装甲があんなに硬いなんて、最高出力のヒートロッドでも歯がたたなかった! けど―? ・・・来る!」

 夜の、とある高校の中庭、校舎の陰に身を隠して祥子はあたりをうかがっていたのだった。右手に一番頼りになる武器、ヒートロッドを持って。だが、今、それが相手にまったく通じないのだった。

 物かげに身を隠すことなど所詮無駄なこと。相手も、祥子同様感覚器は常人の数百倍も優れているはずだ。相手は―その男は、まっすぐ祥子の方へ歩いて来た。姿は人でも、中身はまったく別の禍々しいもの、異形の心を持つもの。
 エクスバイオーグ計画の犠牲者、祥子と同じ者。

「グググ、そーんーなーところで何をーしているーのかなー?」
男は、祥子へ素早く飛びかかってきた。形質発生で、次第に人の姿も崩し、巨大化しつつある。多分力は祥子より数段上だろう。格闘では勝ち目は薄い。祥子は、つかみかかられる前に、空へ飛んで逃れ、男の背後に降り立った。
「関節なら!」
下から男の脇の下をヒートロッドで突く。だが、手応えが何もない。
「! こんなところまで!」
男の足が驚いた祥子の腹に飛ぶ。皮膚硬化が間に合わず、祥子はかなりのダメージをうける。さらに男はうずくまってしまった祥子の腕をつかんで振り回し、校舎の壁に叩きつけた。
「!」
「どーしたのかなー、んー?」
男はうれしそうに祥子の顔を覗き込む。祥子は痛覚機能を最小限に絞って苦痛から逃れ、ヒートロッドで男に斬りかかった。だが、男はたやすくそれを叩き落としてしまった。
「むーだーなのがわからーないのかなー? グググ」
男は、祥子を壁に蹴り飛ばすと、腕から、何か白い液体を吹き出し、祥子の腕に吹き付けた。さらに足にも吹きかける。するとそれはみるみるうちに固まった。
 祥子はすぐに左腕のソードと右腕の触手を展開しようとしたのだが―
「! 動かない!?」
「ぜーたいにそれはとれーないのさー、グググ、さてーどうー殺そうかなー」
男は、さもうれしそうに、大口を開け、牙をむき出しにして、祥子の肩にくいつこうとした。祥子は悲鳴にならない悲鳴を心の中で上げた。
 何かが、頭の奥で、変化した。

「ゴボッゴボッゴワーグブブブー」
男は、よろめいて、後ずさった。口から、頭に、ヒートロッドを突き刺して。男は倒れた。

 祥子は、手足を固着されたままだった。

 だが。

 "もう一本"の異様な醜い腕が、祥子の背後から伸びていた。

 祥子は、そんな腕が自分に付いていることなど、"少しも知らなかった"。

     *   *   *   * 

 祥子、男を焼く炎を見つめている、茫然と見つめている。
「前から化け物だと、人間じゃあないと思ってたけど・・・こんな、こんな物まで・・・」
あとからあとから涙が溢れ出て祥子の頬を伝わっていった。

 

(1988/12/1)

 

back