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戦場のメイドさん

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「どうだった、ロブ」
「うじゃうじゃいましたよ。下手なカモフラージュして待ち伏せてます。こっちからは丸見えでしたけどね」
「となるとこっちの南東ルートが一番手薄ということだが―ぷんぷん匂うな」
「まっ、十中八九ワナでしょう。きっとトラップだらけですよ」
「結局南西を強行突破するのがベストだな」
「ったく、また囲まれちまうたーな。これが終われば今度こそ国へ帰れるはずだったんだが」
「泣き言を言っても始まらんぞ、リック。ともかく、準備をしよう」
「? グリーン、何か音がしないか?」
「音?」
ヒュルルルルー。
「砲撃!?」
「そんなバカな!? いかん、全員ふせろ!!」
あわててグリーンの小隊は塹壕も何もないジャングルの繁みに全員飛びふせた!
ドカン!
「あっいったーい! お尻から落ちちゃったー」
「???」
「女?」
突然上がった珍妙な声に、グリーン小隊の面々が顔を上げると、めくれ上がった地面の中心に、女の子が一人尻餅をついて座っていた。
「な、何だ貴様は!」
「あ、こんにちはー! 私、出張メイド・サービスから派遣されてきました、冥土野マリアでーす! 今日はよろしくお願いしますぅー!」
「?? 出張メイド・サービス?」
「あっ、言語変換うまくいってるみたいですね、よかったぁ」
「いったいどこから入り込んできたんだ?」
「そんな人をじゃま者扱いしないで下さいよぉ。空から降ろしてもらったんです」
「空からぁ!? パラシュートなしでか?」
「はい。何か、経費節約だって言って。どのみちパラシュートで降りたら着くまでに穴だらけにされるから、なしで行けって突きとばされたんですよー。ひどいですよねぇ」
「小隊長、どうしますか?」
「うーむ、敵にしても、見たところ丸腰のようだが、しかし―」
 グリーン小隊の面々が当惑するのもムリはない。そのアジア系らしい女の子は、映画の中にしか出てこないような古めかしいメイド服を身につけていたのだから。
「何か可愛いですよね」
「ロブ、お前こういうのが趣味か?」
「あーなんか私のこと怪しい奴だと思ってますねぇ。私、中隊からの依頼で派遣されてきたんです」
「中隊からの?」
「はい、道案内をして欲しいということですぅ。道案内ってメイドの仕事じゃないと思うんですけどぉ、最近売り上げが落ち込んでてなりふりかまってらんないって社長がひき受けたんですぅ」
「???」
「じゃあ、ちょっと道探してきますぅ」
と、と、と、と駆けていこうとするマリア。
「あ、こらっ、バカ者!」
あわててグリーンはマリアの後ろからタックルをぶちかました!
「きゃああぁぁ!」
「あぁ、小隊長、ずるい!」
「犯るんなら、俺もまぜて下さい!」
「スケベ! エロ! ヘンタイ!」
バキッ!
「ぐえぇー」
「おおー小隊長が一発でのびた!」
「やはり特殊部隊か?」
「東洋の神秘?」
「ジャパニーズ・ニンジャ?」
「いっいきなりこんなところで押し倒すなんて、ひどいじゃないですかぁ! ムードも何もあったもんじゃないですぅ!」
「うっ…じゃ、ムードがあったらいいのかってそういう問題じゃない! そんな格好で走っていったら目立ってしょうがないだろ! 一発でスナイパーにやられるぞ!」
「プンプン! ごちゅーこくかんしゃします!」
がばっと立ち上がると、怒ったマリアはさっさと行ってしまった。
「おっおい! 第一そっちはもうロブが偵察済みだー! くそっ、聞いちゃいねぇ」
 しばらくして。
 パンパンパン。
「…オーマイガー」
「アーメン」
「ジャパニーズ・バンザイ・アタック!」
「…さて南西のルートについてだが」
「う、撃たれちゃいましたぁ〜〜」
「おわあぁー!!」
「いきなり前ぶれなしに撃ってくるんですものー。隠れてるなんてずるいですー。おかげで思い切り全弾浴びちゃいましたー」
「撃たれたってどこを!? メディック! トーマス! 早く来い!」
「あ、いや、痛かっただけで傷はないですぅ。服も破れなかったしぃ。社長があなたはすぐ服を破るからって複合繊維の強化メイド服にしてくれたんですぅー」
「???」
「やっぱりジャパニーズ・ニンジャ?」
「こっちの方はやめといた方がいいですぅー。いっぱい敵がいましたから!」
「だから、それはもうわかってるって!」
「じゃあ、今度はこっち見てきます!」
と、南東へ駆け出していくマリア。
「小隊長、止めないんですか?」
「―もう知らん。装備を点検しろ。南西ルートをとる」
とてとてとて。
「小隊長さーん! こっちがいいみたいですよぉー! 結構歩きやすいし、誰もいなかったですー!」
「だあぁぁー!! その手に持っているのは何だー!」
「これですか? 何でしょうね?」
マリアの手にしているのは、緑色に塗られた20センチ四方ほどの箱形をした物体だった。
「何かそこらへんにいっぱいあったんで一つ拾ってきたんですけど」
「わあー振るな! 触るな! 覗きこむなー! 全員待避ー!」
あわてた小隊の面々は、一斉にマリアから飛び退き、ふせる。
「なんなんですか!? みなさんどーしたんですか!?」
パン!
「ぶべっ!」
マリアは炸裂した対人地雷の鉄球を至近距離から浴びてしまった!
「オーマイガー」
「アーメン」
「ジャパニーズ・カミカゼ・ガール!」
「全員無事か!?」
「大丈夫です、約一名を除いて」
「ちょっと目ぇあけたくねーな。きっと上半身ないぞ」
「すっごい痛かったですー!!」
「のわあぁぁ!?」
顔を上げたグリーン小隊の面々は、そこに、立ちすくむマリアを見た!
「びっくりしましたー! たちの悪いいたずらですっ!」
「だ、大丈夫か? というより何で大丈夫なんだ?」
「そんな言い方ないじゃないですか! 一応体が丈夫なのが唯一のとりえみたいなもんなんですから。かなり痛かったけど、平気ですー…? きゃー服がー!」
さすがの強化メイド服も、対人地雷の全弾一斉直撃には耐えられず、破れて可愛い胸があらわになってしまっていた!
「おおー!」
「うっうっもうしんぼうできねー!」
「あっ、こらっ、よせっ、リック!」
よっぽどたまってたのか、目を血走らせたリックがマリアに抱きついた!
「きゃー! 犯されるー!」
ドン。バタン!
「だから言ったのに」
「さすが特殊部隊」
「ジャパニーズ・ジュードー・ガール!」
「トーマス、リックを見てやれ。えーとマリアだったか、これを着ろ」
「あーすいませんー」
「小隊長、点数かせいでどーする気ですか?」
「ばか者、またリックみたいな犠牲者が出たら困るだろ! まったく。 よし、南西ルートをとるぞ」
「はーい、私もそれがいいと思いまーす。じゃあ私のあとについてきて下さいね」
「こら、かってに先に行くな! もう少し腰を低くしろ!」
「…また私のお尻にさわりましたねー!」
バチン。
「いてぇ」
「しょっ小隊長ばかりずるいです! 次は自分がなぐられてみたいであります!」
「―ロブ、お前そっちの趣味もあったのか?」
「それじゃあ、しゅっぱーつ!」
「う、もういい。リックの分隊は左翼、カールは右翼を守れ。マリアには近づきすぎるなよ」
「小隊長、ほれた女をたてにする気ですか?」
「誰がほれた女だ? あの子はへたな装甲車よりもよっぽど丈夫らしいからな」

 とたとたとたと無造作に進むマリア。
 その後を用心深く身を隠しながらついていくグリーン小隊。
(来るとしたらそろそろだがー)
「どーしたんですか、みなさん押し黙っちゃって」
「大声を出すな!」
パン。カーン。
「あ痛たたたた」
「どっちから撃たれた? マリア!」
「あっちですぅー」
パン、パン、パン。タタタタタ。
「もう頭にきちゃいました! ていっ」
マリアは、手近な巨木に正拳突きを叩き込んだ!
意外ともろかった木は、倒れながらまわりの木々もなぎ倒し、敵に向かって倒れ込んでいった!
ズズーン。銃撃はなくなった。
「…ジャパニーズ・カラテ・ガール?」
「前言撤回だ。戦車より役に立つようだ。よし、用心しろよ、今ので集まってくるかもしれん」
「ぷんぷん。不意打ちって卑怯です! ってきゃあっ」
タタタタ!
「左だ、十時」
「撃ち返せ!」
「いたいいたいいたいー! きゃーせっかくもらった服が穴だらけになっちゃいましたー!」
ヒュルルルルー。パシッ。
「? 何これ?」
「だーっ、キャッチするなー振るなー投げ返せー!」
バンッ。
「…うっうっうっもういやー!!」
グレネードの爆発をもろに浴びて上半身裸になってしまったマリアは泣きながら敵に向かって走っていった!
「あっ、おい、待てー戻れー」
パンパンパン。タタタタタ。かすかに聞こえてくる悲鳴。
静寂。
「マリア!? 大丈夫か!?」
駆けつけたグリーン達は、そこにぐしぐし泣いているマリアと無惨な格好で全滅している敵をみつけた。
「うわっ、こりゃひどい」
「リーサル・ウェポン!」
「だってだってひどいんです! せっかく小隊長さんにもらった服を! 私手加減したつもりだったのにー!」
と、わんわん泣き出すマリア。
「あーわかったわかった! 誰か何か持ってきてやれ!」

「結局、マリアが殺っちまった連中が一番難物だったようですね」
「ああ、何だかんだいって助かったな」
「みなさーん、ここまでくればもう安心ですぅ! 私はここでお別れしますー」
「ああ、ごくろうだったな」
「小隊長、いいんですか、愛しの彼女をこのまま行かせて」
「誰が愛しの彼女だ。第一あんな子とつきあうのはウルトラマンでもムリだ」
「じゃあ、皆さん、さよーならー」
「あっ、おい、こら、そっちに戻るんじゃない!!」
とてとてとて。
「あーもう知らん!」
しばらくして。パンパンパン。タタタタタ。ドン。
「どうします?」
「大丈夫だろう。ほっとけ」
グリーン小隊長はため息をつくと、本隊と合流すべく前進を始めた。


(1998/8/18)

 

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