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公園で出会った男の子

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 もうすぐ日の暮れる、そんな黄昏時に、団地のビル群のすぐ前にある公園の脇の道路を一人の少女が通りかかった。髪をポニーテールにした女の子。志道祥子。と、公園からサッカーボールが転がってきて祥子の足に当たった。祥子は、公園から男の子が駆けてくるのを見てニコっと微笑み、そしてボールを足の甲に上げて跳ね上げ、膝の上で二三回リフティングすると男の子の方へボールを蹴り返した。男の子はすっかり感心した様子で祥子の方へ駆け寄って来た。祥子は公園の方をみて、男の子が一人だけだったことを知る。
「僕、一人だけなの?」
「うん」
「友達は?」
「みんな帰っちゃった」
「ぼくは帰らないの?」
「帰っても誰もいないからつまらないんだ。でも、もうすぐお父さんが迎えに来てくれるんだ」
「ふーん、そっか。ね、じゃ、おねえちゃんがサッカーの相手してあげようか」
「え、本当? じゃ、さっきみたいなの教えて」
 祥子、また微笑んで男の子と公園の方へ行く。

「おーい、ユウー」
 祥子と男の子、声の方を見る。声の主は、背広を着た中年の男性だった。
「お父さーん」
 男の子は男の方へ駆け寄る。そして振り向いて祥子に手を振る。祥子も男の子に手を振り返した。

 何日か、男の子の相手をしていたある日、男の子の父がいつまでも迎えに来ない。
「もう、暗いから、おうちに帰ってまってたら?」
「うん・・・。ねぇ、おねえちゃん、ぼくんちに遊びに来ない? ゲームいっぱい持ってるんだよ!」
誘われるままに男の子の家へ行き、祥子はそこが父子家庭であることを初めて知る。

「お父さんまだ帰って来ないね。残業かな」
「僕もうおなかがすいちゃった」
「よーし、じゃ、おねえちゃんがおいしいもの作ってあげようか」

「ただいま、ユウ、遅くなってごめんな。あれ?」
「あ、おじゃましています」
「お父さんお帰りなさい、あのね、おねえちゃんにホットケーキ作ってもらったんだよ」
「勝手なことしてすいません」
「あ、いつもユウと遊んでくれている方ですか、どうもすいません、ユウ、ちゃんとお礼言ったか?」
「うん」
「じゃ、わたしはこれで」
そのとき、祥子は見送りに出てきた男の子の首筋に、異様な"できもの"があることに気がつく。

 夜の公園のブランコ。祥子、何事か考えている。

 *   *   *

「ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデーディアユウー」
 祥子は、男の子の誕生日に招かれていた。男の子もその父親も本当に楽しそうだ。祥子も、こんなことは、自分の"記憶"の中では初めての楽しい出来事だった。

 男の子はもう疲れて眠っている。
「すいません、今日は本当に。赤の他人のわたしを招いてくださった上にこんなごちそうまで」
「いえいえ、とんでもない、実をいうとお礼をしたいのはこちらの方なんです。うち明けて言うと、あの子がこんなに笑顔を見せたのは本当に久しぶり、そう半年ぶりのことなんです。半年前、妻が急死したときに、ひどいショックを受けましてね。あんなに元気だったのに。くも膜下出血というやつですか。それ以来本当にふさぎ込んでしまって。学校でも、私といるときも笑顔を見せなくなってしまって。でもあなたに会ってから久しぶりにくったくなく笑うようになって・・・」
 

 祥子も少し疲れて、うとうととしてしまっていた。
 それを見て、男が、祥子を起こそうとしたのだが、突然様子がおかしくなる。急に苦しみだし、体が震える。それが止まったときには、すでに普通の"目"ではなくなっていた。さっき食べたものを血と一緒に吐き出したあと、祥子の両腕を掴み、突然口から茶褐色の"触手"を伸ばし、祥子の首筋に突き刺そうとする。祥子、それに気がつき、腕をふりほどこうとするが、がっちりと捕まれている。首を振るが、男の触手は首筋から離れない。祥子、右腕の"触手群"を噴出させ、男の目、口、鼻、耳から侵入させる。男はひるむが、まだ触手を離さない。祥子、男を蹴り飛ばし、左腕のソードを展開して男の右腕を切り落とし、口元に突き刺して男の触手を根元からえぐり取る。男は、下あごの無くなった口を押さえ後ずさったが、また新しい触手を吐き出して祥子の触手群を引きちぎろうとする。祥子、男の触手を左手で掴んでひきちぎり、右手で男の顔面に掴みかかり、顔を握り潰す。そしてソードで首を切断する。頭を失った胴体は左腕で掴みかかろうとして来たが、空を切ってそのまま倒れる。その背中を祥子はソードで真っ二つに切り裂く。男は完全に動かなくなる。祥子、自分の触手で首筋の傷をさぐってみる。
「たいしたことはない、大丈夫・・・。まだ増殖芽も産み付けられていなかった・・・」

 ふと横を見ると、男の子が祥子を見つめていた。恐怖を通りこし、虚脱状態で、何が起こっているのかまったく理解出来ないでいる。祥子は悲しそうな顔をして腰から拳銃を取り出し、男の子の額を撃つ。頭は飛び散り、胴体は崩れ落ちる。

 祥子は男の子の母親の遺影を見る。首筋にかすかな、だがはっきりとした"できもの"がある。
「やっぱり・・・拒否反応で死んだのか・・・」

 祥子、真夜中の団地を足早に去って行く。  

 

(1988/4/12)

 

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