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混乱、混線、大当惑

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 朝。携帯の呼び出し音で目を覚ました赤沼は寝ぼけまなこで画面にタッチする。頭がまだ全然働いていない。それもそのはず、朝の6時といえば高校生の赤沼はまだ熟睡している時間だ。
「んが」
なんだか分からない声で返事をする。すると突然高らかなファンファーレとともに景気のいい声が響いてきた。
「はーい、お早うございます! 目覚ましラジオの"突然クイズ"のコーナーです! 今日はお友達の昼見さんの紹介で電話させていただきましたー! 正解すると番組特製グッズを差し上げます!」
「んが?」
「はい、まだ寝ていたようですね、大丈夫でしょうか! 問題は簡単です! 今の日本の首相の名前をフルネームでどうぞ!」
「あん? 首相?」
寝ている頭を必死にフル回転させ考える。
「あーみやいとー? 宮糸圭輔ー?」
「なんと、間違い!? こんな簡単な問題に不正解が出てしまいました! 正解は、マハトマ・ガンジーですよ! 残念でしたー! それでは失礼しましたー!」
んー宮糸って前首相だったけ。2,3ヶ月でコロコロ変わるからよく分からんのだ、最近の首相は。
 と、ここで赤沼は何かおかしいことに気付く。??? まはとま・がんじー? なにそれ、日本人? もういい、寝よ。赤沼は二度寝を決め込んだ。

 7時。こんどは起床のメロディーが携帯から聞こえてくる。がばっと起きて、6時の出来事を思い出す。なんだったんだありゃ。自分が答えたことと正解が、もうおぼろげになっているが、確かに変だったことに思い当たる。
 二階から降りてくるとラジオから流れる音楽。母が朝ご飯を出してくれる。そして開口一番、
「あんたバカだねー、自分の国の首相の名前も答えられないなんて」
「はぁ? ありゃ問題と答えがおかしいんだよ」
「うちの息子がバカだと思い知らされてなさけないよ」
「はいはい、バカ息子で悪かったな」

 7時50分。自転車を飛ばして高校へ向かう。左子町の踏切はタイミングを間違えると、"開かずの踏切"と化してしまうので、急ぐ。と、途中で同級生の下竹に出会った。奴も自転車を飛ばしていたが、赤沼の顔を見ると、「よ、自分の国の首相くらい覚えとけよ!」と声をかけ、さっさと追い抜いて行ってしまった。赤沼は「うるせーよ!」と返す。

 どうやら遅刻は免れたようだが、クラスの何人かが赤沼の顔を見るなり笑い出す。電車で遠くから通っている連中はどうやら6時には起きていたらしい。その中で、あのラジオ番組を聴いていた奴がいるらしかった。
「赤沼、今の日本の首相は?」
「知らね」
「マハトマ・ガンジーだろ、それぐらい覚えておけよ、テストに出るぞ」
「はぁ? ガンジー? なんでガンジーが首相なんだよ」
「赤沼はこれだからなぁ」「あれ寝ぼけてたんじゃなかったんだな」
 混乱した頭で自分の席に着く。あれは、夢じゃなかったのか? 聞き間違いじゃなかったのか?

 一限目。世界史の授業。だがここでも赤沼は愕然とする。教科書を開いて見たのだが、まるっきりデタラメの記述なのだ。
曰く「1602年 大坂は第101次十字軍に参加、ここでは数々の略奪が行われる」
曰く「1853年 アメリカでは阿片取引を巡って東西戦争が勃発、分断国家となる」
 赤沼は教科書の表紙を見る。確かにこの間まで使っていた教科書だ。
 混乱していると先生が「じゃ、赤沼君立って。レコンキスタとはなんのことか説明してくれるかな?」と質問してきた。見ると先生もニヤニヤしている。趣味悪い奴、と思いながら「キリスト教国による再征服運動、でしたっけ」と答えた。
 「全然違うだろ、この間の授業何聴いていた。仏教徒による日本再征服運動のことだろう」と切り返してきた。
 「すみません」と言いながら昼見のほうをちらりと見る。なんだかすまなそうな顔でこっちを見ていた。

 まったく分からない教科書を見ながらどうしてこうなったんだ、と考えていると、突然、席の前に光が集まり目の前で輝いたかと思うと小さな女の子が現れた。
「へ?」
「あたし飛ばし屋ゆかり。ごめんね、わたしがあなたを巻き込んでワールド間違って飛んじゃったみたい。元に戻してあげる」
と、言うと赤沼の体を掴んだ。「すぐ飛ぶから」と女の子が言ったかと思うと、目の前の女の子の体が光に包まれていき、そして赤沼の視界も光であふれていきやがて周囲の感覚が消えた。

 ふと気がつくと、元の教室だった。なんだったんだ、今の子は、と思い周りを見回したがいない。そういえば、「元に戻してあげる」って言っていたのを思い出し、急いで教科書を見てみる。赤沼は愕然とした。
曰く「すてべろ前次かばには、10はくはぐぶり甲誌」
先生は「ぐらん、がぼみにすぺろまにあけろけおく、げんあいあ?」
 完全に日本語でもなんでも無くなっていた。赤沼は叫ぶ。
「助けてくれー!!!」

 

(2012/4/22)

 

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