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記憶の再生

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「さあてと、そろそろだ。へっへっへ。久しぶりのお食事だからな・・・どうした。苦しいのか?もう少しの辛抱だ。すぐ元気になるぞ」
「・・・うん」
「ほら、その先の公園だ」
  人通りのほとんどない、夜の住宅街。その中に、広い公園がある。男の子は、その公園に足を踏み入れた。男の子は、一人。

「やっと来たの」
「えっ」
男の子の目の前に、女が一人立っていた。
「この人?」
「違う!こいつはまずいぞ、逃げよう!」
「えっ、何で」
「何をぶつぶつ言っているのかな、”魂喰い”さん」
「魂喰いって・・・」
「いいから早く逃げろ」
男の子は分けの分からないままきびすを返し、駆け出す。
「いったい何なの?」
「捕まったらまずい」
「?」
男の子、住宅街を駆ける。が、何かがおかしいことに気づく。
「こここんなに長い道だったけ・・・?」
男の子、足を止める。
「この家、さっきもあったような気がする・・・」
「・・・空間が歪曲されてる」
「無駄な駆け足ごくろう様。」
男の子、振り向く。そこには、さっきの女が立っていた。女は走って来たのではなかった。女が立っていたのは、公園の入口だった。
「何これ!?」
「悪いけど、ちょっと閉じ込めさせてもらったから。さ、おとなしくなさい。死体は死体らしく、土に返ったほうがいいわ」
「死体?って?」
「?君のことよ」
「僕が死体?僕は生きてる!」
「人の魂を喰って?君は、ただ、その”刀”に操られている動く死体よ。死んでるのに気がついてないの?」
「僕は・・・それは、人を殺して、それで生きてるけど、だけど仕方ないじゃないか!そうしないと僕は死んじゃうんだ」
「面白いことを言うのね。じゃあ、君は、どうして、そうなったの」
「僕は、僕は・・・病気で、もう助からないって」
「それで?」
「でも、死にたくなかった」
「君の、そのパートーナーさんとはいつ出会ったの?」
「・・・」
「君の、お名前は?」
「・・・小泉祐一」
「本当に?」
「本当だよ!」
「へえ、そこまでの記憶は保存されてるんだ。その分だと家族や家も知ってるみたいね」
「・・・」
「おい、こんなつまらん問答してないで、さっさと逃げるぞ」
「おまけに二人分の振りをしているのね、面白いわ」
「二人分じゃない!本当に二人いるんだ!あなたには感じられないだけだよ」
「君は死んでるのに?その刀に君が喰われたのね。そして保存されて、再生されているの。君は、ただの、記録されている情報が再生されているだけに過ぎないの。君は、いないのよ」
「この馬鹿、こんなやつにかまってないで、さっさと逃げろ」
男の子、今度は別の方向へ走り出す。
突然、声が辺り一面から響く。
「無駄だっていってるのに。ここは、閉鎖されているのよ。”私”そのもので」
「っくそー」
「何なんだよ!あなたは一体なんなの!?」
「君が、生きるために、喩え話だけどね、生きるために魂を喰うように、私は、魂喰いを喰うのよ。君”達”を喰うために、ちょっとした罠をはって待っていたの。なかなか興味深いから、喰うのはもったいないんだけどね」
「くそ、喰ったってうまくねーぞ!おい、かたっぱしから叩き切れ!ともかくここを出ないと話しにならねえ」
男の子の手に、刀が現れる。男の子、それをめちゃくちゃに振り回す。
「そうじゃなくて、そこいらに有るものに切りつけろ!どうせ本物じゃない」
「うん、分かった」
男の子、脇の家の塀に切りつける。ガン!という手ごたえとともに刀は弾かれる。
「何だよ切れないよ、本物じゃないか」
「いいんだよ、とにかくやれ」
「そんなことをしても無駄。やめなさい」
「うるせー、くそ、早くしろ!」
と、その時、
「おい、何をやってる!何をもってるんだ!?」
振り向くと、懐中電灯を掲げた警官が自転車で向かってくる。
「閉鎖されてたんじゃないのか!?」
「まずいよ警察官だよ」
「おい!!それは、刀か?ちょっとまて、それを離せ!!」
「くそ、逃げろ!」
「逃げろってどこへ?」
「どこでもいい、取り敢えずあの公園に行け!」
「だって」
「いいから早くしろ」
男の子、公園に駆け出す。
「あっ、まて、止まれ、止まらないと・・・」
公園に駆け込み、取り敢えず木陰に隠れる。 あの女はいなくなっていた。
「元に戻ってるのかな」
「さあな」
「あの人はどこにいったんだろ」
「どこでもいいだろ?ともかく、なんかあの警官のおかげで取り敢えずは逃げられたんだ。今度はそれが問題だがな」
「・・・」
「なんだ、あの女の言ったことを気にしてんのか?気にすんな、お前は生きてる」
「・・・」
「生きてる気が自分でしてるんだろ?だったら生きてる。それでいいじゃねえか」
「うん」
男の子は、暗がりの中で、じっと身をひそめ、考えていた。今、こうやって考えている自分は、本当に存在しているのかと。それは、しかし、自分では確かめようがないのだった。

 

(2000/12/31)

 

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