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彼は問いかけ、そして彼は去った

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 そして祥子は当然のこととして受けとめた。目の前の、壁を背にして座っている兵藤の死体を。

 祥子は、兵藤の隣に座り、目をつぶった。兵藤はまだ、そこにいるのだろうか。祥子の触手群が音もなく展開し兵藤の、半ばつぶれた頭部に伸びていった。

 ここはどこ。私の体は――。ふいに自分の体が構成されるのを感じる。そうだ、ここは思念空間……。
 体をつつむ透明な感覚。静かな世界。だが、祥子は、直にこの世界が壊れることに気づく。少しずつ外側から崩壊してゆく感覚網。ここにいられるのもそう長いことではない。
 だが兵藤は。どこにいるのだろう。魂をこの世界につなぐことができる、唯一のこの空間。そのどこにもいないのか。
"もういってしまったのだろうか……"

"……祥子……"
 ふいに、声がした。祥子の存在する全空間から。
 そうか、このネットそのものが兵藤なんだね……。
  祥子は気づく。隣に兵藤が座っている事を。祥子もまた座っていた。

"兵藤……奈津野さんは死んだよ……奈津野さんに頼まれた……「サヨナラ」って言ってって……"
"そうか――すまなかった――祥子――"
"……ああ……今さら遅かったよ……お前にあやまられるなんて……"
"すまなかった――。……はじめから勝てるとは思わなかった。いや――はじめは――しかし――"
"兵藤?"
"エクス・バイオーグ――異種生物間超複合有機体――か……。ただのまやかし、気休めだった……我々をあざむくための……。地上のどこにこんな触手を出す生物がいる? どこにレーザーを撃つ生物がいる?"
"兵藤――"
"我々はただの操り人形だった。我々は何も造らなかった。与えられただけだった。誰でもよかったのだ。我々は――偽装だった……"
"……"
"いったい何者が我々の上にいたのか、どこから来た者なのか? ただそれだけをしりたかった……"
"兵藤……"
"――すまなかった――。祥子……できれば……お前が……その答を……見つけてくれ……"
"――兵藤?"
 そこには、兵藤耕輝はいなかった。
 ここに、終わりが来たことを祥子は知った。

 祥子は立ち上がった。
 奈津野さんも死に、兵藤も死んだ。私の世界も少しずつ壊れてゆく。
 私にも終わりが来るのだろうか。
 祥子はそこを立ち去った。

 

(1992/8/7)

 

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