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絶対確実!

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「すいませーん、亀の子急便ですけど、松田ヨネさんにお届けものでーす」

「――君は何だね?」

「ですから、亀の子急便です。お宅にうかがったんですけど、もうこちらに出棺したということだったんで。間一髪でしたねー、もう燃やすんでしょ? じゃ、その前にちょっと失礼して」

「あ、こらっ何するんだ!?」

「何って拇印を――どうせハンコなんか用意してないだろうし、サインしろったって無理でしょ?」

「ちょっと、あ、こらっやめろっ、こ、こいつを止めろー!!」

 

こんこん。

「誰?」

うかがうようにドアが薄くそっと開かれる。すかさず足を突っ込み、ドアを閉じさせないようにする。

「ちょっと、何するのよ!」

「山田さん、ですね?」

「――! ちっ違うわよ、うちは川野よ!」

「しらばっくれても分かっているんですよ。ここで大声上げてもいいんですよ? 実はあなたが山田さんだってことをね」

「何で――何でバレたのよ――ここが」

「お宅にうかがったら、もぬけのカラ。夜逃げしたっていうじゃないですか」

「せっかく、ここで一からやり直すつもりだったのに」

「まったく探しましたよ! はいこれ、お届け物です!」

「どうしてなのよ――は? お届け物? あなた、借金取りじゃないの?」

「やだな、人聞きの悪いこと言わないでください、私、亀の子急便の配達員です」

 

「今だ犯人は、人質一名をとり、銀行内にたてこもっています」

「犯人や、人質の方の身元は分かっているのですか?」

「犯人については今、全力を上げて捜査中、人質は、預金を引き下ろしに来ていた近所の主婦、近藤さとみさんです」

マスコミと警察との押し問答を後目に亀の子急便の配達員がつかつかと前へ出て、ハンドマイクを握った。

「あーあー。おほん。犯人に告ぐ。無駄な抵抗は止めて出てきなさい――じゃなくて、中田善行さん、中田善行さん、お届け物でーす。今から持って行きますんで、ハンコ用意しといて下さいね。あ、なければサインでもいいです」

「あ、今動きがあったようです、警察側のネゴシエーターが犯人に呼びかけています、犯人の名は中田善行、中田善行と呼びかけています!」

「おい、あれは誰だ! いつ犯人の名が分かったんだ!?」

「え、部長が呼んだんじゃなかったんですか?」

「あ、今銀行に突入を計る模様です」

「な、ちょっと、おい、誰かっあいつを止めろー!」

 

もう、俺はここで死ぬのか? 思わぬ悪天候にルートをはずれて遭難してしまい、ここでビバークして三日目。そろそろ食料もつきかけてきた。決して冬山をあなどっていたわけじゃない。ただ、俺の予想を遥かにこえた厳しさだったのだ。

――誰かに名を呼ばれたような気がした。幻聴か。もう最後というわけだ。

「よしむらさーん」

こんなにはっきり聞こえるのか。それとも、まさか?

「あ、いた。吉村さん」

ふいに目の前に男が現れた。救助隊がきてくれたのか、という淡い期待はこれで粉砕されてしまった。と、いうより、目でみているものが何なのか、さっぱり理解できなかった。

「探しましたよー。こんなところに隠れてるんだもんなー。はい、これ、お届け物です」

目の前の、緑のつなぎを着て、亀の子のマークが入った帽子をかぶった男が、ダンボール箱を差し出す。

「あ、ここにサインをお願いします――はい、どうもありがとうございました!」

やがて男は吹雪の中に消えていった。幻だったのだろうか? だが、俺の手の中には男の置いていった荷物があった。差出人はお袋で、中身は食料品や使い捨てカイロだった・・・。

 

「どうだ?」

「やはり、待ち伏せてました」

「そっちのルートもだめか。完全に囲まれているというわけだな」

「比較的手薄だったのが、南西のルートですが、それでも、今の装備では」

「絶望か」

「・・・はい」

「最後の最後でヘマやらかすたーな。この作戦が終われば国へ帰れるはずだったんだがなぁ」

「今さら泣き言を言っても始まらん。もう一度南西ルートを検討しよう」

「あのーお取り込み中、すいませんがー」

「誰だ!」

とっさに声のした方向へ銃口を向ける小隊長。そこには、見知らぬ東洋人が立っていた。敵か? だが、見たところ、何も武器を持っていないようだった。第一、その格好は――確かに、緑色の服を着ているが、迷彩色というより、目立たせるのがむしろ目的の原色の色使いであった。

「なんだ、きさまは!」

「あの、第二小隊の、グリーンさんですよね。本隊からのお届け物です」

「何?」

見ると、男の背後にいくつかの木箱が積まれている。

「小隊長、補充の武器・弾薬です!」

「よし、これで南西ルートから脱出できる!」

「確かにお渡ししましたからね、じゃ、受け取りにサインを――はい、結構です。それでは、私はこれで」

「お、おい、ちょっと」

あっけにとられていた小隊長が我に返って呼び止めようとした時には、もう男の姿はなかった。

 

「亀の子急便? あまり聞かないわね」

「ええ、こちらの地区に集配所を開設するのは初めてなものですから。それでまあ、こーしてチラシを配っているわけでして」

「ふーん、この"たとえ火の中 水の中"ってフレーズ、誇大広告じゃないの?」

「いや、まあ、それぐらいの覚悟をもってお荷物をあつかってるということです」

「そう。ちょうど一つ荷物を出したくて、どこかの業者に持って行こうと考えていたのがあるんだけど、持っていってくれる?」

「ええ、それはもちろん、預かったからには絶対確実、安全にどこまでもお届けします!!」

 

(1998/7/23)

 

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