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邂逅

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 それに気づいたのは一時間くらい前だろうか。いつからかはわからない。祥子は尾行されていた。
 日が沈みすでに空は闇、だが地上は人工の光が氾濫している。その中を祥子は歩き続ける。いったい何のつもりだろう。少し祥子はいらだっていた。
 やがて祥子が来たのは人気のない公園。外灯の下で立ち止まり、ふり向く祥子。隠れもせず、少し後から現れたのは美しい女性だった。
「何か用ですか?」
 低い声で聞く。何者だ?警察?まさか。それとも。
「用は大有りね。あなたは、派手に動き回り過ぎているのよ。はじめのうちは便利だし見逃してあげたけど、あなた、やり方が荒っぽいから後始末が大変なのよ。――あら、心外そうな顔をしてるわね。あなた、自分でうまく立ち回ってきたつもりだろうけど私達が処理してあげていたのよ」
 この女!!――そう、確かに渡しは完全な証拠消しなどしたことはなかった。
 それでも警察は、マスコミは何も発表はしなかった。
 あいかわらず凶悪殺人事件の急増だけを告げていた。
 私が処理しなかった死骸を調べれば何かがわかったはずなのに。
 目撃者もいる。いや、それよりもそもそもあの全国で起きている猟奇事件を見れば正気のそして生身の人間のしたことではないとわかっているはずなのに。
 だが、それでも人々には何も知らされなかった。

「君の動きが少々目障りになってきたのでね」
祥子、ふり向く。笑みを浮かべた一人の男が立っていた。疑う余地はない。
「あなたたち、組織の人間ね!」
祥子の問いには答えず、男は間合いを詰める。
「おとなしく我々についてくればそれでよし、さもなくば少々痛い目に遭うぞ。やむを得ない場合は殺してもいいという命令を受けている」
祥子、間合いを計る。
「答えはこれだ!!」
 背負っていたヒート・ロッドを抜きスイッチON、男に向かって斬りかかる。が、男は苦もなくそれを手でつかむ。
「こんな未完成のおもちゃでどうしようというのだ?」
驚いた祥子は男に蹴り倒されてしまう。男はヒート・ロッドを投げ捨てる。公園の鉄柱にあたり、鉄柱はにぶい音をたててひしゃげる。
 身を起こした祥子に二人がせまる。
「ただの未完成の試験体が我々に刃向かおうというのか?」
二人の体に変化が生ずる。何度も見たプロセスだ。異形の者への変化。しかし・・
「これが・・完成されたエクスバイオーグ・・」
 あの陽香でさえも変異はしなかった。だが、目の前にいるのは、変異した、完成された禍々しい怪物なのだ。服を裂いて一回り大きくなった体は異様な突起物、触手を伸ばし、完成された凶悪さを秘めていた

「ふん、はじめから我々はお前を連れて帰ろうとは思っていない。――せいぜい”狩り”を楽しませてくれよ」
祥子、はね起き、跳躍。袖が破れるのにかまわず左腕のソードを展開する。祥子の左ひじの部分が盛り上がり、服を裂いて突起物が現れ、腕と平行に伸びて硬化、にぶい青色に光るソードが完成する。
「逃がすか!!」
男の太い触手が勢いよく祥子の足にからみつく。ソードで切り払って着地。ふり向いた男が腕のソードで斬りかかる。左腕でうける祥子。耳をつんざく高音が発生する。
「チッ、ブレードの性質は同じか!」
 右から向かってきた女に向かって祥子、右腕を突き出す。袖口から、無数の触手が弾かれたように伸びる。が、祥子、女の腕を見てすぐに引く。あれは!女の腕の管から突然炎が吹き出してきた!!
 一瞬目を閉じてしまった祥子の右腕上腕部を女がガッチリとつかむ。熱い!感覚を絞る。肉が焦げる臭いがする。ソードで突きかかろうとするが、今度は左腕を男につかまれてしまった。その左腕に何かをはきかけられる。溶解液だ!ソードの形が崩れてゆく。
「悲しいねえ、力がないっていうのは。ハハハ、そーら、こうしたらどうかな」
右腕をつかんでいる女のあざけるような声。右腕に鋭い痛みがはしる。
「ほら」
ガリガリと鈍い音がした。祥子、目にしていることが信じられない。女は祥子の右腕を引きちぎってしまった!!
「うっ、うぐぁっ」
祥子膝をつく。
「どうした、もうおしまいか?」
祥子、左腕を突き出す。半ば溶け落ちたソードが二股にわかれ、ひじの根本の部分にエネルギー・ボールが発生する。ソードをリニア・レールにして打ち出されたそれは祥子のすぐ前で炸裂し、二人に、そして祥子に電光と熱線をあびせかけた。だが二人は平然とそれを受けた。
 祥子、左手をついて地面に突っ伏す。

 エルフォ――助けてエルフォ――
 私はいったい何のために生きてきたの?
 私は間違っていた。何も知らず見当違いの怒りと正義を振りかざして自己満足に浸っていただけだった。いいように利用されていただけだった――。
 悲しい、死ぬのがこんなにつらい、切ないと思ったのは初めてだ。
 私は、私は自分が誰なのかも知らずに死ぬの・・。
 なぜエルフォは出てきてくれないの・・。
 涙で、視界が、ゆらぐ。

「ふん、こんなものか。所詮試験体だ」
男、祥子の背をソードで突き刺そうとする。そのとき、何かの触手が男の腕にからみつくのが顔を上げた祥子に見えた。エルフォ?
「何、これ?」
「ケッ、トカゲのしっぽみたいなやつだな、主人思いの右腕だ。ちぎり取られてもまだ向かってくる」
男、触手を切り払い、祥子の背を刺す。祥子の体中の力が抜けてゆく。
「もうそろそろとどめを刺したら?首を切り落とせば死ぬんじゃない?」
「そうだな、遊びは終わりだ」
銃声が轟いた。

「何!?」
続けて連射音。
「お、おぐああああ」
女が地面に倒れ込み、のたうち回る。
「バカな!?なぜ拳銃弾ごときで?制御部をやられたのか!?」
祥子、銃声の主を捜す。視界がかすみよく見えなかったが、男と女の二人組がそこに立っていて、女が銃をかまえていた。
「こ、この――!!がはっ!」
油断していた男の背に向かって最後の力をふりしぼって立ち上がった祥子は、エネルギーを帯びさせた半壊したソードを突き立て、エネルギーボールを打ち込んだ。
 男と祥子はそのままもつれて倒れ込んだ・・。

 二人組の近づく足音が聞こえる。
「ひどい有様だな」
「大丈夫なの?」
「これぐらいで死ぬようじゃ使い物にならない。――えらく回り道させられたもんだ」
「責任の一端はあなたにあるんじゃないの」
「かもな」
 その、男の声には聞き覚えがあった。祥子を驚愕が襲う。
 そんなバカな。
 あの男は。
 死んだはず。
 爆発に巻き込まれて。
 まさか。
 生きていたのか。
 祥子、顔を起こす。
「うっ、く」
「あ、よかった、まだ意識があるわ」
 祥子の目と男の目があう。
 うそ。
 何かの間違いだ。
「兵藤・・」
 呪いを込めてつぶやく。殺してやる。
 兵藤が生きていたのにその目の前で私は死ぬのか。
 そんなことが――。
 くやし涙がとめどもなく流れ出る。
 やがて視界は闇に包まれていった。

 

(1992/3/22)

 

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