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人生とはかくありき

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「おい、恋と愛の違いって知ってるか?」
世界史の先生の話は誰も真剣に聞かないので、授業はいつもうるさい。普段なら、俺の後ろの席のこの友――和霧という――は、真っ先に騒ぎ出すはずなのに黙り込んでいるから気分でも悪いのかと思っていたら、開口一番これだ。俺が後ろを向いて
「前々からおかしーとは思ってたけど、とーとー狂ったか」
と答えてやったら和霧は神妙な顔をして、隣の列の席の女の子の横顔をちらっと見た。和霧はいつもその子と言い合いしていたが、実は好きなんだと俺に漏らしたことがあった。 「つまりな、恋っていうのはこうスパッとしたもんなんだよな」
と言うと、どっから引っ張り出してきたのか、刀でもって、スパッとその子の首を切り落としてしまった。胴体から転がり落ちた首は俺の足元で止まりムッとしたような顔で俺を睨んでいた。
「分かんねーかなー。それで愛はドロッとしたもんなんだよ」
あっけにとられていた俺を尻目にそいつは女の子の首を持って胴体のしかるべき場所へ据えた。その途端、
「何すんのよこのバカ!」
という罵声とともに和霧は女の子から平手打ちをくらってしまった。 頬をさすりながら和霧は席に戻ると言った。 「な、恋と愛の違い、少しはお前にも分かっただろ」
ぜーんぜん分からなかった。

 

(1990/2/18, 2011/10/19第二稿)

 

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