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移動教室

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 「行ってきます」とランドセルを背負った男の子(アビル君6歳)が玄関から出ていく。母親が「気をつけてね」と声をかけるが、あまりその声に切迫感はない。それもそのはず、玄関の扉を開けるともうそこは教室に直結しているからだ。
 近年、児童に対する犯罪は増加の一途をたどっていた。登下校の際の通り魔的な犯罪、学校への変質者の侵入事件の多発、これらを受けて文部科学省は犯罪から児童・学校を保護するために定地に学校を設置するのではなく、児童の家へ直接学校教室を移動させ、登下校の際の犯罪の防止の抜本的対策とすることとした。また、学校校舎を解体し、教室単位で絶えず機動することで授業時間中の教室への犯罪者の侵入を未然に防ぐこととした。体育授業によるグラウンドなど必要な施設とはランダムな地点で会合することにより、ここでも犯罪被害を食い止めることとなった。
 「はい、ではこの単語の意味が分かる人。アビル君分かりますか?」「ハイ、先生、それは帝国主義です。」そのとき、教室がかすかに揺れるのをアビル君は感じたが、気にもとめなかった。実はこの時、教室に対する自爆テロが行われたのだが、教室への突入寸前で撃破されたのだ。教室は分厚い装甲で守られている上に、CIWSで武装されており、テロリストが教室を見つけて突入しようとしても、自動迎撃されるのだ。
 突然教室に警報が鳴る。こんなことは滅多にないことだ。教師は落ち着いて「全員席にすわりなさい」と指示し、コンソールを見る。教室の軌道上地下100mから接近するものがあるというのだ。あわてて教師は生徒にシートベルト着用を命じる。
 地中から接近する、巡航ミサイルは確実に教室を狙っていたが、いち早く教室は回避機動を開始、空中へと緊急上昇する。高度一万まで10秒。一方のミサイルも地中ブースターを切り離し、空中高速巡航モードに入り、教室を追う。速度では教室には勝ち目はなかった。2基のCIWSうなりをあげ、ミサイルを狙うが迎撃に失敗、ミサイルは教室に突入、核爆発を起こした。
 緊急報告を受けた文部科学省はこれを地球の裏側の某国からのテロであると断定、直ちに文部科学軍を緊急派遣、敵国の首都完全制圧を行い、現政権の解体を行った。
 また、この事件をうけ、移動教室制度によっても児童を守ることはもはや限界に来ていると痛感し、義務教育中は教室は地球から離れ太陽系内を航行することを決定した。
 「行ってきます」とランドセルを背負った男の子(アベル君6歳)が玄関から出ていく。母親が「気をつけてね」と声をかけるが、その声は涙まじりだ。それもそのはず、玄関の扉を開けるともうそこは教室に直結していて、そこにはいると9年間は地球にはもどれないのだ。児童を収容した教室は次々と上昇し、太陽系内の旅に向かう。
 太陽系内を巡航する教室が撃破され、文部科学省が敵惑星の制圧に乗り出すのはまたその後のことである。

 

(2004/4/26)

 

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