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グレー  

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 雨だった。全ての物から色彩を奪いさる雨。全てがグレー。
  ヘルメットをかぶってアパートの外に出た俺は、昨日から塀に倒れかけさせたままのKLXを起こしてまたがり、エンジンをスタートさせる。
  雨は激しく、ヘルメットのバイザーを滝のように流れる。何も見えない。誰もいない。 傘をさして歩いている人影はあった。だがそれは俺にとっては人ではない。何の関係もないただの景色の一部。俺にとっての人とは、心が痛くなるもの。小説でも、テレビでも、占いでもない、閉じれない、消せない、言葉を投げかけ、言葉を要求し、壁のひびをこじあけ、中身を流れ出させようとするもの。一度流れ出したものは二度と殻の中には戻せない。永遠に見られ続ける。その恐怖に耐えられないから、逃げる。
  雨はいい。雨は全てのものの意味を薄め、均一にする。雨になれば、目にみえない関係も更に薄まる。目にみえるものは全てただの環境となる。相互作用しなくともよい、ただそこにあるだけのもの。
  何もないグレーの世界を只一人で走り続ける。

 

(1999/4/9)

 

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