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煙突

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 その窓からは、大きな煙突が見えるきりだった。

 煙突からは、たいてい白い煙が吐き出されていたが、黒い煙がわき上がることもあった。
 ある時など、やや赤みがかった煙が吹き出してきたことがあり、それとともに煙突の方からうめき声が聞こえてきたので、僕はベッドから手を伸ばしていそいで窓を閉めた。

 時折鳩がまわりを飛んでいたが、煙が出ていなくとも煙突に鳩がとまることは滅多になかった。多分煙突が熱いせいだと思う。それでも中にはとまる鳩もいたが、その内の一羽がふと煙突の中にひき込まれて消えるのを見たことがある。しばらくして、煙突の先から黒い塊が投げ出されるのも。

 一度だけ煙突掃除人を見たことがある。暑い日だというのに黒い雨合羽を着た人が、ほうきを手にして命綱も付けずに煙突を登っていき、その先端から入り込んでいった。ところが、入ってすぐに突然黒い煙が出はじめ、大丈夫かと心配したが、やがてすすを入れた袋らしきものをかついだ掃除人が出てきたので安心した。
 調子がよくなったらしく、その後煙突は連日のように白い煙を吐き続け、時たま先端から炎が吹き上がるほどだったが、やがてまた元のペースに戻った。

 ある夜、窓の外を眺めていると、煙突からほのかな明かりがもれているような気がしたので窓を開けると、かすかに楽しげな歌声や笑い声が聞こえてきた。その日はクリスマス・イブだった。

 その煙突も今はもう無い。残念ながら取り壊されてしまい、今ではこの病室の窓からは灰色の空が見えるばかりになってしまった。

 

(1998/8/15)

 

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