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一万人目の訪問者

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「一万人目の訪問ありがとうございます!」画面一杯に文字が出る。
初めて開いたサイトでのいきなりのことで俺はちょっとびっくりする。
見ると、確かにカウンターは1万を示している。しかし、サイト開設が01年? 10年も前の話じゃないか。よく見るとその隣に「カウンターは09/04/18に設置」と書いてある。
なるほど、なんか訳があって途中で設置したんだな。しかしこの計算だと一日十人くらいしか訪問が無い事になる。個人サイトってこんなもんかなと思いつつ、目的のマスコットプログラム(ゴーストと呼ばれているらしい、拡張子がnarなのでnarファイルともいうそうだ)を落としてくる。narファイルをベースウェア(ゴーストを動かすベースになるプログラムだそうだ)につっこむのは明日にしよう。今日はなんだかもう眠い・・・と、突然画面が切り替わる。「一万人目の訪問を記念してあなたには特別なゴーストを送りました。楽しんでくださいね」まだ仕掛けがあったのか、とあきれながら、PCの電源を落とし、ベッドへ潜り込む。

 翌朝起きてまずPCのメールチェックをする。すると見慣れないアドレスから「一万人記念」という題名でメールが来ていた。チッ、このアドレスもとうとうスパムが来るようになったか、と苦い思いでメールを開くと、
「昨晩は私のサイトに来て頂きありがとうございました。あなたがダウンロードしたゴーストは自信作ですのでどうぞ楽しんでください」 とあった。どういうことなのか、混乱しながら考える。サイトに行ったときのIPアドレスからメールアドレスが分かるのか? そんなバカな。第一俺はホームページを持ってないからPCのメールアドレスは仲間との馬鹿話、それに買い物とか図書館の連絡用、ちょっとした懸賞に使うくらいだ。まあ、懸賞はうさんくさいものもあるから、有名企業のアンケートなんかにしか応募してないし、第一ネットにメールアドレスをさらした事なんかない。

 駅から大学へは徒歩だ。その途中で携帯にメールが来た。誰からだろうか、と思い、そして俺は戦慄した。「一万人記念」という題名だったからだ。どうなってる、なんで携帯のアドレスが分かったんだ。混乱した頭で大学に向かうと、俺の顔を見つけたNが「よう」と声をかけてきた。俺にあのサイトを教えた張本人だ。
「どう、あのゴースト、面白いでしょ、更新は停止してるけどトークが面白くてね」
とたたみかけてきた。俺がゴーストのことを知ったのはつい先日、こいつに勧められてのことだ。
「これ見ろ」
俺は携帯のメールを見せる。
「何これ」
「Nが教えたサイトにアクセスしたら来たメールだ」
「何、いきなり携帯のメール教えたの? バカ?」
「誰がバカだ」
俺はかいつまんで昨日の夜から今朝の出来事について話した。

「キリ番踏んでの特別に表示は簡単だけど、その後が変だねぇ。どうせJAVAは切ってたんでしょ」
「ああ」
「というか携帯のアドレスにねえ」
Nも首をかしげる。と、ちょうど携帯がふるえる。誰からだろう、分からない。
「はい」
「あ、昨日はわたしのサイトに来てくれてありがとうございます」
女性の、多分年上の声だ。
「一万人も来てくれるなんて思ってなかったから、たいしたゴーストを用意できなかったのだけど、楽しんで下さいね」
「あ、おいちょっと」
切れた番号は・・・表示されない?
「どしたの」
「今の、電話、昨日のサイトの主から」
「え」
Nは少し顔が青ざめたようだった。こっちは青ざめるどころじゃない、冷や汗をかいている。

 昼休み、Nと待ち合わせると、図書館でNのノートPCを立ち上げた。実はNもただ面白いという評判を聞いただけで、この業界のことや、ましてゴーストの作者のことはよく知らないという。
 問題のページを開く。カウンターは10004となっていた。「当然何も起きないなあ」Nはあちこちリンクを開く。ゴーストを配布しているページを見て「そう言えばゴーストは起動したの?]と聞いてくる。「いや、眠かったしダウンロードしただけで寝てしまった」「それは残念。面白いのになあ、このフランケンシュタイン」「!?」
 俺はNのPCの画面を凝視する。『フランケンシュタイン』!? 「ちょっと待て、俺がダウンロードしたのは"フランチェスカ"だぞ」「は? 何それ? そんなゴースト無いよ」
 ページを見ると、ユーモラスなフランケンシュタインが「フガー」と言っている絵が載っている。
 「俺が見たページは殺風景で文字ばかりでただ『フランチェスカ』」と書いてあるだけだったぞ。だからそれをダウンロードして来たんだ。「ちょっと待って検索してみる」と全ゴーストの情報が載っているサイトを検索した。「フランチェスカなんてないよ・・・第一」、と息を少しのんでから言った「この作者、もうずっと行方不明なんだ。サイトだけは残ってるけど」

 夜。俺とNは俺の部屋のPCの前にいた。あの"フランチェスカ"が何なのか見るためだ。Nにフランチェスカのアイコンを見せる。Nは首を振る。ベースウェアにフランチェスカをインストールする。そしてフランチェスカを立ち上げる。
 画面にはぼやけた黒い長方形が現れる。なんだ、と思ってクリックすると、
「あなたは特別に選ばれました。あなたはわたしの道連れに選ばれました。あなたはわたしと一緒にこちらへ来てもらいます」 俺はNと顔を見合わせて、「こちらへ来てもらうったってディスプレイの中に入れるわけじゃあるまいし・・・」と言いかけたところで、フランチェスカが突然、
「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる」
「ちょ、強制終了!」
ベースウェアを落とす。俺とNは顔を見合わす。
 ドンドン! 「ひっ」ドアが乱暴に叩かれる。

「カジノピザです」あー、二人の晩飯にピザ頼んだんだったっけ、と思い出しほっとして玄関へ行きドアをあけると、見知らぬ女性が立っていた。
「一万人目の訪問、ありがとうございました」「!?」「あなたも私の世界へ連れて行ってあげますね」

 腹に強い痛みがする。見ると、血がだらだらと流れ落ちる。Nの声が遠くに聞こえる。女性がいたはずだったが、そうではなくてピザの宅配だった。配達員は驚愕した表情でどこかへ電話をかけている。しかしもう何も聞こえない視界が黒くなる。

 Nは、その時のことをよく覚えていない。玄関のほうから「私の世界へ連れて行ってあげる」という女性の声がしたのだけは記憶にあるが、ピザの配達員は男性だった。
 ベースウェアにインストールされているゴーストは、フランチェスカではなくすっとぼけたフランケンシュタインだった。
 どうしてもこの作者のことを知りたくて、Nはコミュニティに尋ねたが、フランケンシュタインの作者は一年ほど前に音信が不通になってしまったそうだった。

 Nは自分のPCからゴーストに関するサイトを消した。次は2万? 5万? それとも10万? 分からない。分からないから関わりたくなくなった。

 ある日、PCのメールに見知らぬアドレスからメールが届いていた。なんだろうと思い開くと、「最近訪問してくれなくてさびしい」とだけあった。Nの血の気が引いた。

 

(2010/5/2)

(2011/4/9 サイト訪問一万ヒットありがとうございました)

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